父の帽子(森茉莉著)


「私の父は頭が大きかったので、普通の人の帽子を見慣れた眼で父の帽子を見ると平たく、横に大きい感じが独特で、あった。私は父についてよく帽子屋に入った。
 番頭が出してくる帽子はどれも父の頭には小さかった。」という書き出しで始まる。

森鷗外の頭が大きいという印象はあまりないが、鷗外が、帽子が合わないほど大きな頭をしていて、そのことを帽子屋の番頭がたちがこそこそ笑っているという状況に鷗外が腹を立てることがあり、田舎者扱いされるような気持ちが絶えられなかったのだろうとみる。この気持ち、すごく分かるなあ。

父・鷗外に対するあふれる、尊敬と、ちょっとだけ変なところがある父を愛している、そんな様子が読んでいて感じられ、思わずほほえんでしまうのです。

筑摩書房、新装版1975年)