耐震基準(つづき)

私は建築構造の専門家ではないので、耐震基準がどのような根拠で決められているのか、知りません。それは多くの構造の専門家も同じかもしれません。震災後いろいろな情報に接して、そこから分かったことは、どうも基本は共振理論にあるようです。
建物は、それぞれ固有の震動周期を持っています。それと同じ周期の地震動が来ると、共振によって大きく揺れ、そのために壊れてしまうというわけです。ところが、実際はちょっと違うようなのです。そこが、旧耐震と新耐震の差らしいのです。素朴な共振理論によるのが旧耐震で、ちょっと違う点を考慮したのが新耐震だということです。ただし、どちらも共振理論が根拠になっていることに、かわりはありません。
建物の固有周期は、木造2階建ての場合、旧耐震で0.3秒前後、新耐震で0.2秒前後ということです。鉄筋コンクリート造だと建物の高さ×0.02秒、鉄骨造では建物の高さ×0.03秒だそうです。ですので3階建ての住宅だと、鉄筋コンクリート造で0.2秒前後、鉄骨造で0.3秒前後となります。6階建てくらいの鉄筋コンクリート造のマンションだと0.4秒、鉄骨造で0.6秒程度になります。高さ30mくらいの鉄筋コンクリート造のビルで、0.6秒くらいですね。すなわち、一般的な建物の多くが、0.1秒から0.5秒くらいの固有周期だということになります。
だとすると、地震動の周期が0.1〜0.5秒で、建物被害が最も多くなるはずです。ところが、実際はそうではないのです。専門家の間で、「キラーパルス」と呼ばれている地震動があります。最も被害が出る震動周期だということです。キラーパルスは、地震動の周期が1秒〜2秒なのです。では、共振理論は間違い?
それに対する学者の答えはこうです。まず、0.2秒前後の地震動との共振により建物の一部が壊れ、それによって建物の固有周期が延び、1.5秒前後の地震動で共振し、破壊してしまうということです。「2段階破壊説」と言われるものです。もっともらしい説明ですが、よくよく考えてみると、なんとも都合のよい理屈付けではないでしょうか。とても科学的とは言えないと思うのですが、どう思いますか。ところが、これが新耐震の根拠らしいのです。
この「2段階破壊説」に異を唱える学者も当然います。そして、今回の地震が、それを証明したというのです。それによると、2段階破壊説の1段階目は必要がなく、周期1〜2秒のキラーパルスが直接作用して、建物を破壊するのだいうのです。ですので、新耐震も間違っているということです。一般的な共振理論では説明がつかないと言うのです。
今回の地震はある特徴を持っていました。その特徴が、これだけ大きな地震でありながら、建物への直接被害が少なかった理由でもあるようなのです。我国の耐震技術が特にすぐれているからではなかったようなのです。今回の地震の特徴は、巨大地震にもかかわらず、阪神大震災と比べて、キラーパルスが非常に少なかったのです。それが、建物被害が少なかった理由のようなのです。
キラーパルスに対して、1段階目の破壊を引き起こすとされる周期0.1秒〜0.5秒の震動は、非常に多かったのです。しかしそれにもかかわらず、1段階目の破壊自体も非常に少なかったようなのです。すなわち、2段階破壊説は間違いであるということなのです。それが、単純な共振理論を根拠にしている、新耐震の否定につながるわけです。
しかし、私が超高層ビルで経験した揺れは、長周期震動による共振だと思います。ゆっくりと揺れだし、揺れるたびに振幅が大きくなってゆきました。超高層ビルの固有周期は3秒前後のようです。計算式によるともっと長くなるのですが、実際には、それでは柔らかすぎてしまうので、逆に硬くしているそうです。それがゆっくりとした地震動と共振したと思われます。
一方、免震構造は長周期震動に対して有効だったようです。免震構造とは、理論的には、固有周期を3秒〜4秒にする構造方法です。だとすれば、超高層ビルと同じように、長周期震動と共振して、大きく揺れたはずです。しかし、そうはならなかったようなのです。
私は以前から縦揺れに関心を持っているのですが、縦揺れに対する対策はほとんどないと言っていいのです。専門家は、縦揺れは横揺れより弱いので、横揺れに十分対応できれば、縦揺れにも対応できると言うのです。本当ですかね。縦揺れと横揺れは違うものだと思うのですが。今回の被害を見ても、縦揺れによるものだと思われる大きな被害がありました。
免震構造も縦揺れには対応していません。縦揺れは、強い横揺れと同時に作用することによって、被害を出すので、横揺れを弱めてやれば、縦揺れの被害もないと言うのです。何か言い訳のように感じられるのですが、どうでしょうか。しかし、実際には、免震構造は縦揺れにも有効だったようなのです。

とにかく、地震に関しては、分かっていないことばかりなのですね。何も分かっていない、それが現状です。ですので、地震に対して絶対安全という方策もないわけです。それは永遠に不可能なのだと思います。だとしたら、発想を変えなければなりません。できるだけ被害が出ないようにすることはもちろん大切ですが、同時に、被害が出ても、それをいかに小さくするかということを、考えなければならないのです。
高層ビルは安全、免震構造も安全、と言われると、本当にそれが安全だと思い込んでしまう。そうすると、全く思考停止になってしまう。それ以上何も考えなくなってしまう。原発と同じです。でも、それは危険です。簡単に、「安全」という言葉を信用してはいけません。