2010年3月の新刊 文春文庫

表紙は「まんまこと」カバー画。新刊案内裏面で「ノンフィクションフェア 2010」。裏表紙の「…とっておきプレゼント」は今月末が締め切りです。結局このたびも何もせず見送った。a

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 文春文庫09年8月刊 長野まゆみ あめふらし

あめふらし (文春文庫)

あめふらし (文春文庫)

雨だの水中だの沼だの風呂だの常に濡れたシーンで、蛇だの鹿だのタイムスリップだの大仰な事件が起こっているようで、すべて“あめふらし”である橘河(&夫人)の掌でドラマは不意に収斂する。そっけない会話文がドラマののっぴきならなさを押し上げ読者をおろおろ慌てさすとてもすてきな怪談でした。
たとえばこんなで…

 前略…
 市村くん。出かけようとする若者を橘河が呼び止めた。せいぜい喰われないように気をつけな。そんなに獰猛な蛇なんですか。たとえ話だよ。用心しろってことさ。…はい。行ってきます。市村はいつものごとく腑に落ちない顔をして出かけた。
 悪人になったよな、仲村も。あの奥方は蛇より性質が悪いんだぜ。米倉はカメだからいいようなものの、市村が疵ものになったらどうするんだ。彼は平気ですよ。心配ならつきそいをどうぞ。…おまえさ、ほんとうは好きなんだろう。誰をですか?とぼけたってダメだよ。
  やどかり ラスト部分

ストーリーは不思議ときれいに収斂し、ぬるい浴槽の中でうたた寝していたのに気付き慌てて飛び出し寒さに驚くような読後の驚きはひどく新鮮だ。生だとか死だとか、このぬるさの物語の中では一番大事なそんなことも意味をなさずに沈殿したり攪拌されたり…切れ切れの記憶でバイク事故やら危険な女子大生やら不穏で危険なねばりが読者を包み込むという、読書の危険をつよく感じさせました。

 文春文庫10年1月刊 藤原新也 渋谷

渋谷 (文春文庫)

渋谷 (文春文庫)

カメラマンという人種とはまあ度し難いというか、自分とは違う種族というか、まあテレクラとかに平気で行けるんだろうな。木山捷平の小説を山口瞳が評していて「どうしてあんなふうに女性に声をかけられるのか(だからあれはフィクションだ)」というけれど、なにさまでもないある種のずうずうしい人たちは普通に藤原新也できるし、不思議なことにハンコを間違えてシャープな出会いがあったり…まあ、何しろわたしは最後まで感情移入せずに読了してしまいました。