2012年5月の新刊 文春文庫

裏面は“夏の青春フェア2012”。桜庭一樹「ブルースカイ」がハヤカワ文庫から移籍だが、あれって失敗作だろ、魔女裁判のあれってきちんとした参考テキスト使ってないでしょ、何だか水戸黄門とかで“代官様に囚われた庄屋の娘”みたいなセットなんだな。あとやっぱ“蒼井そら”という名の有名人がおられるのという、世間一般的な常識に関しては何らかの措置をしたのかな?ハヤカワ文庫版の青一色カバーのキーンと図抜けさにはあの当時びっくりしたな、エポックというか文庫カバーのデザインを変えたすてきな作品だったけど、装幀が誰なのか不明、なかなかそこまで目がいきませんでした、水戸部功の出現を予告した画期的なものでした。

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 文春文庫4月刊 桜木紫乃 氷平線

氷平線 (文春文庫)

氷平線 (文春文庫)

初めて読む作家、文庫デビューのようだ。通俗もの短編集としては及第点(もちょっと性描写のおまけがほしいが)だが、でもこういうのって需要がないんじゃないのかという危惧はあります。社会性を感じる部分(フィリッピン花嫁とか美容室の先輩のレイプとか)もあるのだが、まあ普通の人生だものそう単純にミステリーになってはいけないのだろう。
「夏の稜線」、むかしむかし原田宗典「相談しようそうしよう(なやみなさんなみなさん)」中で酪農一家(母と姉弟)で休みが取れない労働環境で弟が母に暴力をふるうようになった…なんて相談に対し「なんとか休み取りましょうよ」とまあ、普通の答えしか返せなかったなんてのを思い出した。どうにも日本の農業っていうのはパラダイスっぽくないですね、「7人の侍」の時代からあまり変わっていないように思えるし、逃げ出すのはとてもよい考えだと分かります。
「海に帰る」、昭和49年のお話でべつに回想というわけでなしどこかに繋がっているわけでもなし、時代を切り取るだけの画力も感じない、通俗落とし話としてしか機能せずつらい。でもこの処女短編集以降もコンスタントに作品を出しているらしいし、もひとつ味見もしてみたい。