あなたの人生の物語 / テッド・チャン


色々な思い出のある小説。
色々すぎて、内容以前にこの小説は忘れられないものの一つだが・・・。


それでも、この小説に出会えた事、テッドチャンという天才と同じ時代に生き、
この小説が色あせず輝きを放っている時に読めた事が本当に幸せだと思う。


もう何回読んだかわからない。
いつもカバンに入っていて読めるようにしている。



「あなたの人生の物語」という題名の、なんと的確で奥の深い事か。



光は二点間を結んだ時に一番最小の距離を進む、「フェルマーの定理」。
それを思考の中枢に持つ、ベルトコンベアのような7本足の異性人「ヘプタポッド」。


そのヘプタポッドとコンタクトを試みる言語学者の主人公ルイーズ。
セッションを重ねるうちに、ヘプタポッドの言語を少しづつ理解していく。

しかし、その独自の言語を理解を深めるにつれて
思考の変容を得る代わり、ある悲しい事実を知る事になる。



悲しい悲しい事実。



ひとつの物理定理をここまで叙情的に、悲しく暖かい物語に仕立て上げるテッドチャンは何という小説家なんだろう。
フェルマーの定理と未来の夢を結びつけるなんて誰が考えられるんだろうか?


僕は英語も苦手だし、大学で勉強したドイツ語にも何も面白さを見出すことは出来なかった。
でも、この小説を読む度に、「言語」というものの面白さに気づかされる。
普段何気なく「考える」たわいも無い事、
それは自分の普段使っている日本語という言語の大きな影響下で成り立っているものだという事。
表題作以外の「理解」などでも言語に関する作者の並々ならぬこだわりを感じる事ができる。


SFでここまで感動させる事が出来るという事に驚かされたし、
SFという概念が根底から覆されてしまった。


一向に発表されない二作目がもどかしい。
早く読みたい。