ブログトップ 記事一覧 ログイン 無料ブログ開設

エル・ライブラリー 大阪産業労働資料館 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

震災復興支援
エル・ライブラリーは博物館・美術館、図書館、文書館、公民館(MLAK)の
被災・救援情報サイト「saveMLAK」の活動に参画しています。

2017-01-09

l-library2017-01-09

『日本における社会改良主義の近現代像 ―生存への希求』

| 13:45 | 『日本における社会改良主義の近現代像 ―生存への希求』を含むブックマーク 『日本における社会改良主義の近現代像 ―生存への希求』のブックマークコメント

 玉井金五・杉田菜穂著(法律文化社/2016年11月/A5判292頁)

 本書は、人口・社会問題を軸に、戦前戦後における社会改良主義の学問的鉱脈を丁寧に探索して現代と対峙する、社会政策論の体系的な専門書である。11の章と2つの補章から構成されているが、それぞれが独立の共同執筆論文なので、専門書は苦手でも、関心のある部分から読み始めても、本書の前提となる方法論に到達できる。

 書名の「社会改良主義」については、新自由主義に対して社会民主主義的見解が対置されるが、1897年発足の社会政策学会は、その学会趣意書(1900年策定)において、「社会改良主義」を標榜してきたし、実際の日本の政策・制度は中間的な社会改良主義的な考えに基づいて運営されているのだから、その中身を厳密に精査して現代的課題に立ち向かいたいというのが、本書の立場である。改良志向の社会政策という分野で論陣を張った者を中心に光をあてている。思想・学説と政策・制度の間の距離を見極めつつも、その密接な関係性を、日本の社会政策の歩みとして丁寧に検証している。

 日本社会政策論の系譜は、<経済学>系と<社会学>系に分類され、<経済学>系の象徴とも言うべき大河内一男の社会政策論が、労使関係や労働問題を軸にした研究に大きく影響を与えたことは周知のことであり、本書で改めてその影響の広さ・深さを学ぶことができる。だが、本書では、これまでの社会政策論史において論及が少なかった<社会学>系社会政策論が果たしてきた役割を戦前まで遡って発掘して再定置することに重点を置いている。その過程は、「人口問題と社会政策」の系譜とも言いかえられるとしている。

 目次を以下に全部記載するのは、本書がいかに体系的に構成されているか、個別には知られている研究者が日本社会政策論史においてどのような系譜に位置づくのかがわかって読みたくなると思うからである。例えば、筆者の関心から言えば、森本厚吉の消費経済論が、どのように位置づいているのか、家政学やジェンダー研究において、欠かすことのできない先駆者の一人であったことが理解できた。(伍賀偕子・元「関西女の労働問題研究会」代表)

目次
 序章 社会政策と現代の対話 課題と方法
 第1部 社会政策と分析視座
第1章 日本社会政策論の系譜 <経済学>系と<社会学>系
第2章 <社会学>系社会政策と社会保障・社会福祉 福武直の世界
第3章 社会政策と厚生経済論の交差 福田徳三と大河内一男
第4章 日本社会政策思想の潮流 <市場>経済と<非市場>経済
 第2部 社会政策と生命・生活
    第5章 1910〜20年代の日本進歩主義者の群像  「救貧」から「防貧」へ
    第6章 戦前日本の社会政策と家政・生活問題 森本厚吉の消費経済論
    第7章 日本における<都市>社会政策論 山口正と磯村英一
第3部 社会政策と人口問題
   第8章 人口問題と日本社会政策論史 南亮三郎の位相
   第9章 人口の<量>・<質>概念の系譜 上田貞次郎と美濃口時次郎
   第10章 戦前から戦後における人口資質概念の史的展開
   第11章 人口抑制から社会保障へ 人口認識の形成過程
終章  人口・社会問題のなかの社会政策 結びと展望
補章1 戦後日本における社会開発論の生誕
補章2 日本社会保険制度史と近藤文二

  

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20170109

2016-12-29

『女工哀史』と猪名川――名著は兵庫県で書かれた(2)

| 21:04 | 『女工哀史』と猪名川――名著は兵庫県で書かれた(2)を含むブックマーク 『女工哀史』と猪名川――名著は兵庫県で書かれた(2)のブックマークコメント

 日本近代史研究者・小田康徳先生の『猪名川史話―兵庫川西・川とくらしの地域史』が2017年夏ごろには刊行されます。それに先立ち、関西の労働史にかかわりの深い部分を抜粋し、4回に分けて連載します。予告編がこれだけ面白いと本編が楽しみですね。

(前回は、どうして「能勢の山中」が多田村だったのかという所まででした。今回はその謎を解き明かします。)

『女工哀史』の本文には、「大阪の大資本家喜多又蔵氏の経営にかかる兵庫県猪名川染織所」という名が何ヶ所かに出てきます。そして、たとえば労働者の住居の様子について、「表面だけ二十六畳部屋に定員二十二人としておき、その実三十三人まで入れてゐる。こうなるともう入れるのではなくして無理矢理に押し込むのだ。全く足の踏み入れ処が無い。其の上此処はまた一つの部屋の配置については棟々を「松の寮」、「竹の寮」、「梅の寮」とか「何分舎」とか称え、部屋は「何十何号」と呼ぶ」といった具合に、実に見ていなければわからないことを記述しているのです。
f:id:l-library:20161122134027j:image:w460

(猪名川染織所のあったあたりを北岸から望む: 画面右(東)端あたりの崖の上が地番表記の場所。工場はそこから画面左側(西)にかけて、
いま病院・マンションなどの建物の建っているあたりに広がっていた。手前の川で友禅流しが行われたのだろう。夫妻は多田時代の後半期、この川をはだしで渡って工場に通った。
写真撮影:小田康徳氏)


 わたしは、この「猪名川染織所」というのが本人たちの働く工場であり、またそのそばの住まいで『女工哀史』を執筆していたと目星を立てていたのですが、決め手がありませんでした。なにより、昭和二九年(一九五四)多田村・東谷村そして川西町が合併してできた川西市の発行する『川西市史』にこのような名前の工場の記録が全く出てきていないのです。大正一三年(一九二四)に作成された「川西村を川西町へ」という村議会の議案書の中には紡織関係として「大阪織物株式会社猪名川分工場」というのが出てきますが、名前がどうもあいません。しかもこれは、阪急の能勢口駅と官有鉄道の池田駅を中心に都市化し始めている川西村所在の工場です。

 また、最近岩波文庫から出版された細井和喜蔵の妻だった高井としをの『わたしの「女工哀史」』は、この間の出来事を詳細に語っていて、たいへん分かりやすいのですが、そこには「兵庫県の猪名川の上流の多田村にあった猪名川製織所へ入社した」とあって、「猪名川染織所」とはなっていません。しかも、この名前の会社も『川西市史』には出てきていないのです。

 ただ、多田村という村名が出てきたのは、この本が最初です。間違いなく現在の川西市内にあった工場です。しかも、能勢口駅から能勢電車に乗っていくので、よそから来た人には「能勢の山中」といっても差し支えはありません。これは大きなヒントになると思いました。そこで、念のためにと考えてネットで「猪名川染織所」を検索してみました。そうすると、大原社会問題研究所の所蔵する労働争議に関する調査資料の中に「猪名川染織所」の労働争議調査表が出てきて、手書きのメモで「兵庫県川辺郡多田村」と記入されています。争議発生時期は大正十五年となっています。また、ネットにはもう一つ、『官報』が掲載されており、第四三〇二号(大正一五年一二月二四日)に内務省告「第二三九号」で健康保険組合の設立を認可しているのです。それが喜多合名会社(大阪市西区江戸堀南通二丁目十三番地)で、組合の名称「猪名川染織所健康保険組合」、事務所の所在地「兵庫県川辺郡多田村新田字下川原二百六十二番地ノ一」となっています。

なお、この健康保険組合の解散についても官報があり、昭和七年七月一日であることが明示されています。まさしく、細井和喜蔵が『女工哀史』本文で何度か紹介している大阪の資本家喜多又蔵の会社「猪名川染織所」そのものです。だから、もうこれに間違いないと考えられるようになったわけです。高井としをが「猪名川製織所」と記載しているのは「猪名川染織所」の勘違いだったというべきです。なにしろ、一九八〇年という相当後年になって記述された自伝ですから、間違ったとしても無理はないと思います。むしろ、よく似た名前を五七年ものあいだ覚えていたことの方に驚きます。それだけ、思い出も深いものがあったのでしょう。
(つづく)

<小田康徳>
1946年生まれ。大阪電気通信大学名誉教授。NPO法人旧真田山陸軍墓地とその保存を考える会理事長。あおぞら財団付属西淀川・公害と環境資料館館長。主な著作は『近代日本の公害問題―史的形成過程の研究』・『歴史に灯りを』など。『新修池田市史』など自治体史にも多数関係している。川西市在住。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20161229

2016-12-28

新着雑誌です(2016.12.28)

| 17:27 | 新着雑誌です(2016.12.28)を含むブックマーク 新着雑誌です(2016.12.28)のブックマークコメント


今週の新着雑誌です。
新着雑誌は閲覧のみです。貸出はできません。
労政時報 3921号 2016.12.9 (201269941)
労政時報 3922号 2016.12.23 (201270147)
賃金と社会保障 1670号 2016.11.25 (201269974)
労働法律旬報 1877号 2016.12.10 (201270006)
労働経済判例速報 2292号 2016.11.30 (201270030)

詳細な目次はこちら

続きを読む

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20161228

2016-12-10

l-library2016-12-10

『映像が語る「地方の時代」30年』

| 17:21 |  『映像が語る「地方の時代」30年』を含むブックマーク  『映像が語る「地方の時代」30年』のブックマークコメント

 今回から寄贈本紹介の執筆スタッフが新たに加わりました。ボランティアのNさん(男性)です。図書館員の経験はないのですが、これまでもエル・ライブラリーで時々配架作業や目録整理作業を手伝っていただいておりました。ではNさん執筆の「寄贈本紹介」、第1回目は6年前に出版された以下の図書です。

※※※
映像が語る「地方の時代」30年
「地方の時代」映像祭実行委員会 編(岩波書店/2010年11月/四六判 本文178p 資料66p)

 1978年7月、横浜市で開かれたシンポジウム「地方の時代」の基調講演「地方の時代を求めて」で、長洲一二(ながす・かずじ)神奈川県知事(当時)は新しい文明論を提起した。その中で長洲氏は、戦後30年にわたって進められた中央集権的近代工業化が歪みを生み行き詰まっていると指摘し、それを打破し、人間復興の社会を作り直していくために必要なのが「地域」「地方」を見直すこと、そのための「歴史的キーワード」が「地方の時代」だと提唱したのである。
 2年後の1980年から、地域の放送局、ケーブルテレビ局、市民・学生・高校生や自治体などによって、「地方の時代」は具体化される。「地方の時代」映像祭である。
 さらにその翌年、1981年から、基調講演やシンポジウムに加え、映像作品のコンクールが開かれるようになった。それから本書刊行の2010年の第30回映像祭までに3000作品を越える映像が出品されている(この映像祭は本年2016年も開催された)。

 3000作品というと相当な数だ。巻末の入選作リストを見ても多種多様であり、作品リストがそのまま「『地方』からこの国を見るとどうなるのか」の見事な提示になっている。中でも目立つのは、第1に国や企業の巨大開発に翻弄される地域を見つめ、その矛盾を問いかける作品群。第2に地域に内在する課題に地域自らがどう向き合ってるか、そのあり方を問い、あるいは地域の「内発的発展」への努力を描いた作品群。第3に、弱きもの、差別された人たちの視線で時代を問うものである。第4は、戦争や原爆の証言をつたえる作品群。第5に、地域に生きる人々の暮らし、伝統文化、しきたり、家族愛などを静かに見つめる諸作品がある。

 本書は、19人もの著作者からなる。その概要は、第1に、「地方の時代」という理念がどのような役割を果たしてきたか、十分に開花しなかったとすれば、それはなぜか、また今後求められる「真の地域主義」とは何かを考える。第2に、「地方の時代」映像祭の30年はどういうものだったか確認する。また、各地域で映像作品は何を伝えようとしたのか、どのような役割を果たしえたかを各地の制作者が具体的に報告する。第3に、今後、地域は何をどう目指していくか、その中で地域のメディアはどのように取り組むべきなのか考察していく。

 本書はまた、上記のように、「地方の時代」映像祭にさまざまな形でかかわってきた多数の著者による諸論考が一方にあり、他方、詳しい「地方の時代」映像祭資料(各回の開催概要、審査員一覧、受賞作品一覧・5年ごとの受賞作品紹介と概説)があって、論考・資料の両面から「地方の時代」30年を理解することができる。

[目次・著者一覧]
 序として――地域からこの国を問う  市村 元

第1章 「地方の時代」の30年
 「地方の時代」の背景と展望  後藤 仁
 「地方の時代」30年を総括する  新藤宗幸
 「地域主義」回復のために  富野暉一郎

第2章 「地方の時代」映像祭の30年
 きわめて私的なドキュメンタリー 回想の「地方の時代」映像祭  吉田喜重
 「地方の時代」映像祭の審査から見えたもの  結城登美雄
 作品コンクールから見えるもの  辻 一郎

第3章 地域からの発言
 「地底の葬列」が見つめた夕張  後藤篤志
 仙台三部作を撮る――「イグネ」「つかい川」「イナサ」  伊藤孝雄
 伝えたい! 地方の温かさと実態を  中崎清栄
 やぶにらみドキュメンタリー  阿武野勝彦
 地方の異邦人  曽根英二
 オキナワからの発信  山里孫在

第4章 これからの「地方の時代」と地域メディア
 地域メディアの「身土不二」  中村耕治
 地域メディア宣言  樋泉 実
 地域メディアとしてのケーブルテレビ  丸山康照
 「地方の時代」とローカルジャーナリズム  吉岡 至
 「地方の時代」映像祭のこれから  音 好宏

 あとがき  市村 元
 「地方の時代」映像祭資料 (濱崎好治・音 好宏)

(ボランティアN)

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20161210

2016-12-09

新着雑誌です(2016.12.9)

| 15:00 | 新着雑誌です(2016.12.9)を含むブックマーク 新着雑誌です(2016.12.9)のブックマークコメント


今週の新着雑誌です。
新着雑誌は閲覧のみです。貸し出しはできません。
労政時報 3920号 2016.11.25 (201269800)
賃金事情 No2729 2016.11.20 (201269990)
賃金事情 No2730 2016.12.5 (201270022)
企業と人材 No1045 2016.11.5 (201269743)
企業と人材 No1046 2016.12.5 (201269776)
労働経済判例速報 2291号 2016.11.20 (201270055)
労働判例 No1143 2016.12.1 (201270089)
労働法律旬報 1875号 2016.11.10 (201269917)
労働法律旬報 1876号 2016.11.25 (201269719)
旬刊福利厚生 No2111 2016.11.8 (201269883)
労働基準広報 No1904 2016.10.21 (201269891)
労働基準広報 No1905 2016.11.1 (201269867)
労働基準広報 No1906 2016.11.11 (201269925)
労働基準広報 No1907 2016.11.21 (201269933)
労働基準広報 No1908 2016.12.1 (201269966)

詳細な目次はこちら

続きを読む

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20161209

2016-12-05

l-library2016-12-05

Library of the Year 2016 大賞・優秀賞受賞記念イベント

| 13:21 | Library of the Year 2016 大賞・優秀賞受賞記念イベントを含むブックマーク Library of the Year 2016 大賞・優秀賞受賞記念イベントのブックマークコメント

伊丹市立図書館ことば蔵とエル・ライブラリーの見学、トークイベント、祝賀会を開催します!

 「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー Library of the Year」(LoY)は、これからの図書館のあり方を示唆するような先進的な活動を行っている機関に対して、NPO法人 知的資源イニシアティブ(IRI)が毎年授与する賞です。
 今年は、IRIメンバーおよび外部推薦で寄せられた53施設・団体・サービスの中から第1次選考会、第2次選考会を経て、4機関がLoY2016優秀賞、2機関がLoY2016ライブラリアンシップ賞を受賞しました。
 そして11月9日の最終選考会で、栄えある大賞にはみごと伊丹市立図書館ことば蔵が選ばれました。おめでとうございます! ことば蔵は市民が運営に参加する市民協同の図書館です。最終選考会でのプレゼンテーションも図書館員ではなく市民が担いました。地元から横浜まで応援団が駆けつけ、大賞が決まった瞬間には「園長」とプレゼンターが抱き合って喜び、受賞挨拶では園長が感極まって言葉に詰まっておられる様子が感動を呼びました。
http://www.iri-net.org/loy/loy2016.html#comment
<受賞理由>

  • 伊丹市立図書館ことば蔵:図書館において、学びや遊びに関する創造的な活動を市民と共に実践している点を評価。
  • 大阪産業労働資料館(エルライブラリー・):地域における公共的活動拠点として開かれ、広範囲な人々が支えている点を評価。

 
 この受賞を記念し、両館では下記のイベントを開催します。奮ってご参加ください。4部構成ですので、どこから参加されてもどこで離脱されてもかまいません。

  • 日時:2017年1月21日(土)
    • 第1部12:30 エル・ライブラリー書庫のお宝見学会
    • 第2部15:00 ことば蔵見学
    • 第3部16:00 トークイベント「市民とともに歩むこれからの図書館」(受賞館スピーチ、選考委員、会場を交えたフリーディスカッション)
    • 第4部18:00 祝賀会「白雪ブルーワリーレストラン長寿蔵」(兵庫県伊丹市中央3-4-15)http://choujugura.com/restaurant/index.html
  • 参加費:第4部の祝賀会は4500円。それ以外は無料。交通費は各自負担。
  • 申し込み: lib@shaunkyo.jp までメールまたは電話 06-6947-7722までどうぞ。
    • エル・ライブラリーの見学会は定員10名。
    • 第4部の申し込み期限は1月18日
    • 第2部と第3部は申し込み不要、直接ことば蔵にご来館ください。

※右上の写真はことば蔵提供。

伊丹市立図書館ことば蔵
所在地:伊丹市宮ノ前3丁目7番4号
地図とアクセス:https://www.itami-library.jp/kaikan.html

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20161205

2016-11-30

『女工哀史』と猪名川――名著は兵庫県で書かれた(1)

| 18:26 | 『女工哀史』と猪名川――名著は兵庫県で書かれた(1)を含むブックマーク 『女工哀史』と猪名川――名著は兵庫県で書かれた(1)のブックマークコメント

 日本近代史研究者・小田康徳先生の『猪名川史話―兵庫川西・川とくらしの地域史』が2017年夏ごろには刊行されます。それに先立ち、関西の労働史にかかわりの深い部分を抜粋し、4回に分けて連載します。予告編がこれだけ面白いと本編が楽しみですね。

 大正14年(1925)7月に初版が発行された『女工哀史』のことを、ここでお話しましょう。これは、戦前の日本資本主義を底辺で支えた女子労働者の生活記録として、彼女らの働く紡績会社の労働現場を記録するものとして、また文学作品としても不朽の価値を持っています。もちろん、『女工哀史』については教科書にも出てくるものですから、もはや、あれこれ説明する必要はないでしょう。しかし、この著書のかなりの部分が、多田村新田(現在川西市)の猪名川染織所でこの著者とその妻が働きながら書き続けていたことはご存じだったでしょうか。著者らが猪名川の流れに心を癒されながらこの不朽の名作を書き綴っていたこと、これは猪名川の歴史にとっても欠かすことができません。ここで、ぜひ紹介しておきたいと考える所以です。

f:id:l-library:20161030115527j:image:w460
※写真:細井和喜蔵・としを夫妻が暮らした猪名川付近の現景―多田神社を望む(小田康徳氏提供)

 『女工哀史』の著者は細井和喜蔵。明治30年(1897)5月8日、京都府与謝郡加悦町加悦谷に生まれました。関西の工場で職工生活に入り、やがて労働運動に参加します。そのため「黒表(ブラックリスト)」がついて就職ができなくなったと自分で述べています(『女工哀史』自序)。彼は、東京に出て仕事につきながら、いつかはみずからが体験してきた紡績女工たちの劣悪な生活実態を小説的、散文的にまとめてみようと思い立ちます。そして、東京の工場で働きながら、少しずつ書き始めようとしていたのですが、またまた工場の争議に巻き込まれてそこも辞めざるを得なくなってしまいます。こうして彼は二年前に結婚していた妻としをの仕事とその収入に頼りつつ『女工哀史』の文章を書き始めたのです。大正12年(1923)7月、26歳の時でした。

 さて、このままならば、この名著は東京で書き上げられていたと思われますが、運命というのは不思議なものです。大正12年9月1日に起きた関東大震災で、震災後数日は東京で過ごしていたのですが、労働運動家は殺されるという友人の警告を聞いて、彼らは、取るものもとりあえず、二人で家を出、上野〜直江津〜名古屋〜岐阜へと回って、やがて大阪四貫島の東洋紡績社宅に住む昔の知り合いの家に厄介になり、続いて世話する人の勧めで多田村の猪名川染織所に勤務することとなったのです(高井としを『わたしの「女工哀史」』)。

 ところで、多田村の猪名川染織所といま簡単に書きましたが、ここを特定するにはいろいろ調べることが必要でした。細井和喜蔵の『女工哀史』自序には「兵庫県能勢の山中へ落ち延びて小やかな工場へはいり」とだけあります。これでは工場は特定できません。

 はてさて、どのように調べてこの工場を特定したのでしょうか、そのお話は次回で。(つづく)(次回は12月末の予定)

<小田康徳>
1946年生まれ。大阪電気通信大学名誉教授。NPO法人旧真田山陸軍墓地とその保存を考える会理事長。あおぞら財団付属西淀川・公害と環境資料館館長。主な著作は『近代日本の公害問題―史的形成過程の研究』・『歴史に灯りを』など。『新修池田市史』など自治体史にも多数関係している。川西市在住。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20161130

2016-11-25

l-library2016-11-25

市民アーカイブ多摩にエル・ライブラリーがデビュー

| 11:52 | 市民アーカイブ多摩にエル・ライブラリーがデビューを含むブックマーク 市民アーカイブ多摩にエル・ライブラリーがデビューのブックマークコメント

 報告が遅くなりましたが、7月29日に館長谷合が市民アーカイブ多摩(東京都立川市)にお呼ばれして講演した内容が、『アーカイブ通信』no.8(ネットワーク・市民アーカイブ編集発行)に掲載されました。

 市民アーカイブ多摩は2014年4月に設立された、多摩地域を中心とした個人や団体が発行する通信・会報など市民活動資料を収集公開する民間のアーカイブズです。
 そもそもは、東京都立多摩社会教育会館市民活動サービスコーナー事業が2002 年に廃止となり、そこで収集された市民活動資料ダンボール500 箱を散逸させてはいけないという運動から始まりました。アーカイブズの来歴が当エル・ライブラリーと似ていますね。募金活動を行って開館にこぎつけたということで、現在までずっと市民ボランティアによって運営が続けられています。
 「過去・現在・未来における資料の共有を内実とする、“ 市民活動資料を共有する思想” を創造していきます」と、設立の趣旨に謳っておられます。大変共感することが多いアーカイブズです。

 市民アーカイブ多摩では「緑蔭トーク」という講演会を定期的に開催しておられますが、谷合は特別編として急遽登壇させていただきました。そこでは、エル・ライブラリーという資料館がどのように生まれ、どのように駆け足でここまで運営を続けてきたか、市民に支えられ市民を支える図書館・アーカイブズとしての歩みを語りました。

 最新号の「アーカイブ通信」(2016.11月号)にはその時の抄録が掲載されています。同誌は8ページと短いのですが、全頁カラー印刷の美しいものです。エル・ライブラリー内で限定部数配布していますので、お早めに手に取ってご覧ください。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20161125

2016-11-24

新着雑誌です(2016.11.25)

| 16:44 | 新着雑誌です(2016.11.25)を含むブックマーク 新着雑誌です(2016.11.25)のブックマークコメント


今週の新着雑誌です。
新着雑誌は閲覧のみです。貸出はできません。
労務事情 No1329 2016.11.15 (201269826)
ビジネスガイド No831 2016.12.10 (201269842)
労働法律旬報 1874号 2016.10.25 (201269784)
賃金と社会保障 1668号 2016.10.25 (201269818)
賃金と社会保障 1669号 2016.11.10 (201269735)
労働法令通信 No2433 2016.10.28 (201269875)
労働法令通信 No2432 2016.10.18 (201269909)
労働法令通信 No2434 2016.11.8 (201269768)
労働法令通信 No2435 2016.11.18 (201269792)
月刊人事労務 333号 2016.10.25 (201269701)

詳細な目次はこちら

続きを読む

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20161124

2016-11-14

『飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝』

| 15:18 | 『飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝』を含むブックマーク 『飾らず、偽らず、欺かず 管野須賀子と伊藤野枝』のブックマークコメント

 田中伸尚著(岩波書店/2016年10月/四六判240頁)
f:id:l-library:20161112180300j:image:w160:right
 
 「大逆事件」(1910−11年)で処刑された唯一の女性、管野須賀子(かんの・すがこ)。その約10年後、「甘粕事件」(1923年)で憲兵隊に虐殺された伊藤野枝(いとう・のえ)。女性を縛る社会道徳や政治権力と対決し、コンベンショナルから脱出し、自由を求めて疾走した二人の生と思想を、「歩いて書く」という書法で調べた関係者の証言や資料をもとに描き出した、読み応えのある示唆深い書である。
 書名の「飾らず、偽らず、欺かず」は、須賀子の獄中手記に書かれた言葉。
「大逆事件」については、第59回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した、同著者の『大逆事件―生と死の群像』(岩波書店)に詳しい。
 二人は14歳違うが、思想系譜や活躍の舞台から考えれば出会いがあってもいい筈であるのに、権力・軍部の理不尽極まりない暴力によって、二人とも30歳前に命を断たれて、出会うことがなかった。須賀子の刑死の翌年に、野枝が表現の舞台にデビューしたことになる。
 著者によれば、須賀子は、みずからアナキスト、無政府主義者と名乗った「最初の女性」であり、もともとクリスチャンのジャーナリストだが、国家ではなく個人の生や思想を尊重し、女性の人権を大事にする世界に変革するにはアナキズムだと考えるようになった。当時としては当たり前だった忠君愛国主義者だった彼女が、社会主義者との出会いの中で、その思想を変革成長させていく過程も丁寧に実証されている。
 そして、野枝も、堂々とアナキストを名乗り、女性としては、須賀子についで二人目だったと述べている。思想の自由が極端に狭められた「冬の時代」に、互いに出会うことがなかったとしても、見えないバトンを受け取ったのだと思うと、共通点を見出している。

続きを読む

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/l-library/20161114