文芸サークルからみたコミティア(かきなおし前版)

 コミティア87について、忘れないうちに書いておこうと思います。
 開場の拍手と同時に、整然と入場していく人の列。スタッフたちの手際のよさに感動しました。

 とはいえ、僕はコミティア歴も短いので、今回のコミティアが歴史的にみてどの程度の成功をおさめ、どのような問題が発生したかについてはよくわかりません。そのような状態で筆をとるのもなんですから、今回は『文芸サークルからみたコミティア』ということで、若干の内輪ネタも含みつつ同人文芸について書いてみようかなと思ってます。


 まず、わたしたちは昨年度の10〜11月ごろ、「ゼロアカ以外全部紹介」と題して、文学フリマという活字オンリーイベントの出典サークルを調査しました。その数150前後に上ります。基本的なデーターは当該エントリを検索していただければよいのですが、その際に一つの指針として「文学フリマ以外に多くサークルが他のイベントにもでている」ということを指摘しました。
 それはあたらずとも遠からず、というのが今の実感ではありますが、コミティアにも文学フリマに参加していたサークルたちが多く参加していたことをまず述べておくのもよいと思います。
 『ティアズマガジン87』より、つらつら目についたサークルをあげると

  • お16b 真神司令部
  • お19a ゆとり世代部
  • お27a 獨協大学 文芸部
  • お34a ジャンク・ヤード
  • お35b 練馬言葉力研究所
  • か08b 伊予枠
  • か15a みいこプロ
  • か17a アーカイブ騎士団
  • か18b 萌え理論
  • き13b 大吉エクセレント
  • き17b 虚影庵

 ほかに「よだかの星」さんとかいろいろ見たような気がするのですが、見つかりません。ジャンル小説などのサークルさんも大量にあったのですが、ちょっと記憶を頼りに書いているのでわからないのです(なお、同人ジャンル小説については僕はかなり疎いです)

 有名どころではほかに「出版評論社」さんなども出ていたような気がしますし、見た限りでは評論系のサークルもいくつか参加していたようです。ゼロアカ組で萌え理論(文芸空間)以外に参加していたサークルはあったかしら?

 おおむねは「お」から「き」ぐらいの所に「非ジャンル小説*1」が集まり、そのほかのところにジャンル小説や漫画を含めて展開しているサークルたちが散見する、というのがコミティア87での文章系サークルの動向であったような気がします。文章系サークル、といっても創作小説や詩といったものだけではなく、「家の建て方」とか「戦闘機の歴史」とか非常にコアな素材を扱うサークルたちも含んでいるようでした。

 さて、概観はそんなところで。自分たちのサークルの話でもしましょう。

 「左隣のラスプーチン」では、委託のCD2枚、フリーペーパ、それに自分たちの文芸雑誌をもっていきました。文芸雑誌『S.E.VOL2』の売れ行きが4部程度だった記憶があります。一番はけたのはフリーペーパで、100枚ちょっともらっていってくれました。表紙をみてちらちらとめくってくれるお客さんはたくさん立ち寄ってくれたのですが、ぱらぱらとめくってもらえるものの、最後までめくってくれる人、あるいは買っていってくれる人は非常に少なかったように記憶しています。


 「漫画を買いに来ている」人たちに文章を届ける、ということの難しさを改めて感じました。ううん、この言い方は傲慢だったかもしれません。文章のコンテンツを、どうやって見せれば漫画に匹敵するものとして受け取ってもらえるのか、を考えるべきであろうと思うのです。



 あるBL系の文芸サークルさんの前で立ち止まった折、「お求めはファンタジーですか? それともSFですか?」と聞かれたのを思い出しました。元気のよいひっつめ髪にメガネをかけたおねーさんは、「普段はどんなジャンルを読みますか?」と続けざまに質問。僕はたじたじとしながら、あれやこれやともごもごいってると、少し寂しそうにそのおねーさんはこう、つぶやくようにいいました。
 「あ、もしかして、普段は活字とか、ダメですか?」と。

 僕がコミティアで「闘っている」という人を見たのはそういう瞬間だったかもしれません。コミティアライトノベル系の小説を展開している人たちは――文学フリマとはまた違った位相で、という注意書きが必要かもしれませんが――「そもそも活字を読まないかもしれない」人たちに向けてそれを発信しているのです。二次創作であれば、「東方が好き」とか「ひぐらしが好き」という理由で徹底的にその関連ジャンルを買いあさるということもあるかもしれません。そういう人たちがいるということは、とても楽しいことだと思います。思いますが、オリジナルの小説を読んでもらう、ためには、面白さや読ませ方とは、もっと全然別の、誤解を承知でいえば「識字」との戦いを要求されているのだと、思ったのです。

 それでも、もうちょっとだけそういう場所で「あそんで」みたいというのが僕の気持ちではあるわけです。具体的な闘い方=売り方はまだいろいろと模索してみなければわからないけれど、コミティアでもうちょっと、遊んでみたいなと思っているわけです。文章系サークルが、どうやって漫画を届けるか。ただ、このコミティアの状況は、もしかしたら「日本語」の縮図かもしれません。むしろ「漫画すら読まない」人たちにどうやって情報を届けるか、そんな議論が真剣になされる日さえ、くるかもしれません。もちろん冗談半分のネタですが。

コミティア87、気になるサークル。

 CDを頒布しているサークル。トールケースに、CD一枚、取り扱い説明書のようにはいるイラスト集。世界観をイラスト/音楽で見せるという同人音楽にありがちな売り方ながら、トールケースの採用といい、音楽のクオリティといい、鮮烈な印象を残した。ストレートなファンタジーのボーイミーツガールのようだけれど、イラストから得られる情報も、音楽から伝わる世界観も断片的であり、文字や漫画といった「物語」なしに読み手の想像力を加速させる。しかしイラストはかなりハイレベル。サイトを見てもわかるとおり、実にうまく「世界を作って」いる。
 何気にイベント初参加、初CDというが、提供された世界と音楽には無数の空白と余白が残されていて、かれらの成長力次第ではもっと面白いものができるだろうと期待が膨らむ。
 難をいえば、彼らの世界観はラピュタ的「ベタ」であり、その音楽もまたゲーム音楽的なパッチワークを感じてしまう。一言で言って作家性が――個性が、自由が、自分たちらしさが、自分たちが参与したい場所のなかに新しく投げ込みたい思いが――足りない。経験をつみたくさんのことを考えて、「エレフセリア」らしさを爆発させてほしい。
 
 

  • た17a こう企画

 『反撃突破 上下』を二冊出している。超暴力漫画だが、説明不要。何もかもが何もかもおかしい。しいていえば、何もかもがおかしい。

*1:という言い方が正しいかどうかよくわかりませんが