「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

BOOK〜天然痘と闘った町医者の感動の生涯…雪の花(吉村昭)

lp6ac42007-05-01

江戸時代に、私財を投げ打って天然痘と戦った福井の町医・笠原良策の生涯を描いた作品。



良策は、幼い頃から人命を救いたいと願って医学の道に入ったが、天然痘については無力だった。なぜならば、当時日本全国、そして福井でも天然痘が大感染し多くの死者を出していたのだが治療法がない。家族は医師のところに行かずに祈祷のために神社や寺に行く。黒焼きにした牛の糞を飲ませるという迷信がはやり、それを信じるしかなかった。(>_<)


そしてあるきっかけで当時、異国の文化を取り入れることさえ容易でなかった鎖国の時代に西洋医学の治療法である「種痘」にそのわずかな解決策を見出すのだ。
牛も天然痘にかかる。その牛痘を人間に植え付けると赤く腫れて痕は残るが、一生涯天然痘にかからない、今で言う免疫の概念だ。イギリス人ジェンナーによって創始され、効果的な予防法(ワクチン)として徐々に世界に広がりつつあったのだ。



鎖国の当時、牛痘苗を輸入することは国法で禁止されている。人の命を救おうといてもたってもいられない良策は、福井藩主・松平春嶽に嘆願書を提出する。ところが、主君の命に基づいて仕事をしている役人が、そんな突拍子もないものを受けるわけにはいかないと嘆願書が握りつぶされてしまい、紆余曲折3年かかってようやくそれを実現する。しかもその莫大な費用は良策がすべて私財をなげうって負担するというものだった…。


唐(中国)との交渉が成立した手紙を受け取った時の良策には泣ける。(T_T)



良策は、狂喜し、手紙をつかむと立ち上がり、廊下から裸足で庭に飛び出した。驚いた妻が、夫が発狂したのだと立ちすくんだ。『ご許可が出たのだ。天然痘をこの世から駆逐できるのだ!』とひざまずいたまま顔を覆って泣いた。



ところが、今では考えられないことだが、異国と聞いただけで身を震わせる者がほとんど、葡萄酒を飲み、当時日本人が食べない牛や豚の肉を食べる西洋人を生き血をすする野蛮人ととらえ、その西洋から伝わる種痘などは悪魔の妖術のようにとらえている。しかも、体の中に恐ろしい天然痘の苗を植えるということに人々は恐れおののいて誰もが白い眼を向ける…。


そしてまた福井での天然痘の大流行。朝早く神社や寺に厄除けの祈願の行列が出来、死者が続出している…。人々から、ののしられ、石を投げられ、狂人とさげすまれる良策…。 (>_<)


当時、西洋医学に目覚め、種痘を取り入れて天然痘を治療するのは、どれほど困難だったか。未知の技術を広げ、過去の常識と闘うことが、淡々と書かれていてその純粋なまでのひたむきさ、信念の強さ、医者としての使命感に胸を打たれる。


世界の疾病史上、画期的な発明であった種痘法は、またまくまに世界に広がり、1980年、WHO(世界保健機関)は、天然痘の絶滅宣言を出した。2000年以上前から続いていたといわれる天然痘ウイルスとの戦いはこれで終わりを告げる。


私たちの生活や暮らしの中には、当たり前のことの中に、多くの有名な、そして無名な先人たちの知恵や苦労や失敗や積み重ねがあって成り立っていることを思うと、全てのものに感謝せざるを得ない気がする。<(_ _)>