「てるてるソング」 小野塚テルの一日一冊一感動『感動の仕入れ!』日記

毎日の読書、映画、グルメ、流し、人との出会いなど様々なものから感動を得ています。特に本は年間300~400冊読破します。人々を『感』させ『動』に導き、『感する人』になるようにそのエッセンスを紹介しています。

「猿まわし復活 その調教と芸」(村崎義正)

この本には心底感動した!早くも今年読んだ本のベスト3は間違いないだろう。「猿まわし」という芸がいかに難しいか。また一度消滅したものを復活させることがいかに難しいか。動物をしつけるということがいかに難しいか。著者はあの「反省猿」の村崎太郎の父でもあり、この調教を復活させた村崎義正。そのエッセンスを紹介しよう。


・明治、大正の、猿まわし全盛時代には、山口県高須部落には、150頭の芸猿がいた。つまり、150人もの猿まわし芸人がいた。しかし千年ものあいだ、国民にしたしまれていた猿まわし芸が、昭和38年、最後の調教師、重岡武寿・博美兄弟のかけがえのない調教法が完全に消滅した


調教は、誰にでもできるものではない。猿は猛獣であるから、気力、体力すべての手で、猿にまさるものでなければならない。弱い人間が調教をこころみたら、あべこべに噛み付かれてしまう。また、調教師は、練習は人前でやるが、芸の根切り(仕上げ)は、人まではやらない。根切り法を他人に見せると盗まれる。盗まれたら飯の食いあげである。


・重岡武寿は、「東京まで歩いて行って帰るぐらい徹底的に歩かせないと歩くようにならない。歩かせすぎて、猿の足の裏が破れて血がにじみ、人間の生爪も、二回や三回はげないと歩くようにならん」という。猿まわし全盛時代、高須には幾人もの専門の調教師がいた。私が聞き知っているだけでも、三人の調教師が気狂いになっている。気狂いになった理由は解らないが、気が狂ってしまうほど困難な仕事である。


中でも感動したのが、二歳の猿の「ジロー」をしつけるシーンだ。


「その猿、ジロー君ちゅうんなね。ええ子じゃから頑張りいよ。頑張って、早よう一人前にならんにゃいけんよ」その瞬間、がぶっとジローが、ふじ子さんが頭をなででいる腕に噛み付いた。その瞬間、「女子と思うてなめたね」と、ふじ子さんは絶叫するや、さっと、噛まれていない方の腕をのばし、ジローの片方の耳タブをつかんでいた。ジローの顔が引き吊り、噛み付いている腕を離した。次の瞬間、噛み付かれた方の腕をのばし、もう一方の耳タブを素早くつかんだ。


ふじ子さんの観音様のような顔が、夜叉に変わっていた。私はこれまで、さまざまな助成の怒りの顔を見てきたが、これほどすさまじい怒りの表情を見たことがない。また一瞬に、これだか激しく様変わりした表情も見たことがない。


私が、あっ、と生きを呑む間の出来事であった。ふじ子さんの体が飛躍した。ジローの両耳タブをしっかりにぎったまま、ジローの背中へ馬乗りになったのである。スカートのままである。ジローを地面に圧倒して、ジローの顔を思いっ切り地面に叩き付けた。「ギャギャギャ」と、悲鳴にあげる。

「よう覚えちょきいよ。人間にあらごうたら、こうなるんよ」


またもや、ジローの顔を地面に叩き付ける。


「ギャギャギャ、ギャギャギャ」


「解ったかね。ジローちゃん解ったかね。人間にあらごうたら、顔は潰れるんよ」


ふじ子さんは、ジローの顔を、地面に押しつけて、ごりごりすり付けた。


「グウ、グウ、グウ」


やさしゅうに、いたわっちょったら、猿は、絶対に芸をやるようにならんよ。こうしてゲジ(折檻)をして、ゲジをして、徹底的にゲジをせんにゃ、人間の言うことは聞かんし、一人前の猿にゃなれんのよ。これ等あの世界でも、ボスになろうと思うたら、命がけで喧嘩をするんじゃけいね。なみたいていの力じゃあボスになれん。ゲジをして、ゲジをして、太郎君がボスちゅうことを、ジローちゃんに、教えんにゃ、いけんのよ。それで、はじめて、コンビがうまれるんじゃけいね


ふじ子さんは、太郎を、諄々とさとす。太郎はうなづきながら、ジローにさすりを入れる。ふじ子さんの顔は、もとの観音様に戻っている。


ジローちゃんごめんね。あんたをひどい目に遭わせようとは思わんじゃったんよ。太郎君とあんたにいっ時も早よう一人前になって貰いたいばっかりに、ひどい目に遭わせてしもうて、本当にすまんじゃったね。こらえてよ。オバちゃんは、早よう、一人前になってくれることを願うちょるよ


吾が子をさとすように、さとす。ふじ子さんの思いが、まぶしいくらいににじみ出ていた。太郎とジローが峠を超えた。けわしい峠を。人間と猿が一緒に超えた。人も猿も、超えなくては生命を輝かすことのできない、けわしい峠を超えた。


ふじ子さんが、ふたたび調教をやりたがらない理由が呑み込めた。子を産み育てる母性に、どうして、このような残酷な仕打ちができようか。鬼にでもならなければできない。


猿まわしを見る見方が変わるよ。著者の猿まわし復活にかけるアツい思いが胸を打つ。超オススメです。(・∀・)