仁礼信兵衛が逝く その二 〜血に染まった御前会議〜 恥ずかしい病気!? その十三 (肛門周囲膿瘍・痔瘻)


仁礼信兵衛が逝く  → その一
恥ずかしい病気!? その → 十一十二





ここ桜不煮藩では月に一度、
奉行所が順番で、
藩主や家老、
大目付や他の奉行・副奉行へと、
日頃の成果を発表する、
「御前会議」が行われる。




この年の葉月は、
日々矢郡奉行所の番であった。




奉行である小二倉猟虎ノ介が不在である為、
藩主の前に並ぶのは、
筆頭副奉行、愚山雲々斉(ぐっさんうんうんさい)、
次席副奉行、消瀬羅世良池太(けせらせらいけた)
そしてこの度、
奉行並頭を就任した、仁礼信兵衛だ。
何故か、仁礼が三人の中心に座らされ、
藩主や他の聴衆の視線を集める位置にあった。




痔瘻の発作の痛みが頂点に達していた信兵衛。
腫瘍は大きく膨らみ、
弾ける寸前だ。
鎮痛剤を本来の二倍の量を服用し、
仁礼は会議に臨んだ。




進行は、愚山が取り仕切る。
大目付の若芽禿魚露ノ新(わかめはげぎょろのしん)
の、助言という名の「横槍」の通り、
先月の目標未達の説明から発表を始めた。




「えぇーいっ愚山、やめぃっ、やめい。」


藩主が突然恫喝する。




「何をくとくどと言い訳めいたことを、
ぶつぶつ話しておるのじゃ。
おぬしらは猟虎ノ介がおらねば烏合の衆か。
わしは良い点、悪い点、
これからどうするのか、
それだけが聞きたいのじゃ。
すぐにやり直せぃっ。」




急遽、日々矢奉行所一同が集まり相談を重ね、
良い点、悪い点を各三つに絞り、
仕切り直し、再び発表が始まった。




良い点、悪い点の発表の後は、
今後の展開であり、
仁礼信兵衛が発表する番である。
ここは勢いに乗って、
大きな声で気合を入れ、
藩主や他の聴衆に、
質問させる隙を与えてはならない。



「えーっ、当奉行所におきましては・・・」




発表はうまく進行している。
藩主が何度もうなづき、
笑顔も少しずつ見え始めた。
後、少しで発表が終わるその時だった。




プシュー〜。




痔瘻の疼痛が嘘のようにひいて行く。
気合を入れすぎて、
腫瘍が弾けたのだ。
畳は真っ赤に血に染まった。




「これにて失礼致します。」



会議を中座して、
厠にむかう信兵衛。
袴や褌も鮮血に染まっていた。




藩主の御前を血で穢し、
会議を中座した罪は、
通常であれば切腹にも値するが、
今回その罪は問われることはなかった。




しかしこの伝説は、
ここ桜不煮藩で、
「笑い話」として、
長く後世に語り継がれることとなる。(多分。)



つづく





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