やり繰り(201310024・1度2:40)

 バルザックが借金王だったことを知って、ますます好きになった。ロダンバルザック立像は、そういえば小説のほうではなく、そっちの王様の貫禄がよく表現されているか。
 借金ならモーツアルトも負けていない。史上初のフリーランス作曲家で、セレブ女子のピアノ教師までしたが、演奏会を主催しようとしても、ウイーンではまるで受けなくなってしまっていた。彼がのこした手紙にはそんな事情でか、借金を懇願する証拠があるのでわかる。証拠の量がただごとではない。借金したまま35歳で亡くなった後で、未亡人が裕福な商人と再婚し、すべて返金したという。そんなこと知ってもどうだというのではないが、天才をやたら神格化せずに済む効用はある。

 下図はモーツアルトが譜面中に書き残した数字を拡大したものだ。『モーツアルトの1・2・3』と題した展示用に、僕の手でいじってある。ご容赦を。
 作曲しつつ彼が書き残した数字は何だろう? 作曲上での何かの計算だろうか。素人には判断できかねるが、僕には借金の額を確かめているように見えてならない。妻は年中体調が悪くて温泉療養に出かけていたから、その金だってバカにならない。自分の遊興費だって欲しい。まだ35ではないか。彼は作曲しながらやり繰り算段をしていたのだと、勝手に思い込む。
 近所の商店街では、売ってるコロッケなんかに似合わないのに、朝からモーツアルトを流している。もしも没後200年間の著作権料を彼に払っていたら、ビル・ゲイツなんか足下にも及ばない貸し金王にもなっていただろうにと、庶民はくやしがるのである。