Hatena::ブログ(Diary)

maplecat-eveの日記

2017-06-12 『20th Century Women』/Mike Mills

[]『20センチュリー・ウーマン』(マイク・ミルズ/2016)

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感傷的な気持ちに身を任せると

星の明かりが部屋に差し込んでくる

あなたの愛に満ちたやさしさは

まるで暗闇を照らす炎のよう

「In a Sentimental Mood」


スーパーマーケットの駐車場で燃え上がるフォード・ギャラクシー。少年ジェイミーが生まれたとき家まで運んだ父の車が炎上するシーンから『20センチュリー・ウーマン』は始まる。劇中で使用されるザ・レインコーツの曲名「スーパーマーケットのおとぎ話"フェアリーテイル・イン・ザ・スーパーマーケット"」に倣う出発点を持つこの作品は、車の炎上=父の消失〜母親の物語、正確には複数の「母親」の物語への移行を、守られた迷い子の歩みのように表象する。ちょうどスケートボードに乗ったジェイミーの後ろを車からやさしい眼差しで追う母ドロシアの庇護のように。ドロシアの誕生日パーティーではベニー・グッドマンのバージョンの「イン・ア・センチメンタル・ムード」が木調の家に懐かしく響くだろう。この曲はデューク・エリントンが亡くなった母親に捧げたインストゥルメンタルとして知られる(歌詞はその後付けられたもの)。この作品において、2つのジャズ・スタンダードの響きは、1979年を彩る刺激的なポップミュージックと共に、基調となるおおらかな響きを持つことになる。


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そう、マイク・ミルズは『20センチュリー・ウーマン』において、「響き合い」の生まれる瞬間を丁寧に掬いとる。登場人物が誰かに発した言葉は、発信者である本人に全力で跳ね返ってくる。全力でぶつけた言葉が失敗も含めて全力で返ってくる様を、私たちは何度も目撃する。マイク・ミルズは、その切実さの中にこそ関係性=映画が生まれるのだと信じている誠実な映画作家だ。息子ジェイミーを怒ったあとに泣いてしまうドロシアに。妊娠が困難になったアビーから「子供を持つことは人生の最大の経験だった?」という質問を受け、即答でイエスと答えた後すぐに「ごめんなさい」と謝るドロシアのやさしさに。「あの頃の私は生意気で、いつもイライラしていて、、、とてもハッピーだった!」と過去を振り返るアビーの独白に。「10代の頃聴いていれば、もっと楽になれたと思う」曲たちをジェイミーに聴かせ踊るアビーに。いつも二階の窓から登場(!)し、ジェイミーと添い寝するジュリーに。自分の言ったこと、したことの現在への反響が切実に迫ってくる。ここにあの素晴らしい『ビギナーズ』のTシャツの言葉を思い出す。「My personality was created by someone else」。そして、そんな大好きな彼女たちから、「女性」についていろんなことを学びたい少年ジェイミー。「いい男になりたい」とジェイミーは願い、学び、実行し、失敗する。ジェイミーに限らず、実行と失敗を繰り返し描くところにこそ、マイク・ミルズの「響き合い」はある。


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スケートボードに乗ったジェイミーを後ろから車で追うドロシアのショットには、保護者であるのと同時に、息子の成長に追いつけない(ジェイミーがどんどん離れていく)母親の悲しみが表されている。『20センチュリー・ウーマン』が感動的なのは、ジェイミーの急激な成長に手を焼くドロシアの反応をジェイミーが待っている、その瞬間をショットとしてきっちり捉えているところだ。わざと母親を挑発することを言った後、自分の欲しい答えを待っているジェイミーの迷子のようなリアクションを見逃してはならない。ジェイミーは母親の真実を待っている。「ウソはダイアログに。真実は風景に。」とはケリーライヒャルトの言葉だが、こういう一面的でない演出が出来る映画作家を私は心から信じる。だからこそ、「母さんがいれば僕は大丈夫」と伝える二人のシーンに、嗚咽のように泣いてしまう。たった一度だけ。ジェイミーが髪をドロシアにブリーチしてもらってからの、たった一度だけの真実でこの映画はかけがえのないものになる。


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映画館を巡る旅の記録をエッセイ風に仕上げたマイク・ミルズの短編『So Many People』(こういう作品をたくさん撮っている)では、各地の劇場のお客さんがカメラに向かって「ハーイ!」と笑顔で応えるショットが地名と共に繰り返される。見ているこっちが思わず笑顔になってしまうようなユーモア溢れる作品なのだけど、モノクロで捉えられたこれらの風景は、いつの時代の何処だろうと、人々の笑顔、喜びを表すときの感情に変わりがないことを示している。マイク・ミルズは『20センチュリー・ウーマン』において、時代の変化によって移ろい、変わっていく人々を描くのと同時に、いつの時代も変わらない、とどまり続ける感情を描く。「イン・ア・センチメンタル・ムード」で、母親の誕生日を祝福したように、この映画のもう一つのジャズ・スタンダード「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」は、謎めいた大好きな母親、大好きな女の子たちへ贈る最高の「響き」だ。


これだけは心に留めていてほしい

キスはキスであり、ため息はため息だ

恋の基本はいつの時代にも当てはまる

いくら時が流れようと

「As Time Goes By



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2017年を代表する大傑作!ありがとう、マイク・ミルズ

http://www.20cw.net/sp/index.php

2017-01-30 『Jackie』/Pablo Larrain

[]『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(パブロ・ラライン/2016)

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『Jackie』


『ジャッキー』に寄せられた言葉で、ナタリー・ポートマンがインタビューで語った言葉に敵う批評はありえない。曰く、「聡明なジャクリーンは自分が記者に語る言葉がそのままアメリカの物語になることを知っていた」。そう、『ジャッキー』はジャクリーン・ケネディの辿った数奇な運命よりも、彼女の創り出したアメリカの「物語」に光を当てる。大衆の目の前に出るためにリハーサルを重ね、鏡の前で有名なピンクのシャネルのスーツを着て本番に向かうジャクリーンの姿。バレンタインデーに全米で放映された、ジャクリーンがホワイトハウスを紹介する『ホワイトハウス・ツアー』(ホワイトハウスはジャクリーンによって内装を一新。新しいアメリカの理想のイメージを提示した。監督は後に『猿の惑星』を撮るフランクリン・J・シャフナー)の撮影のために、秘書のナンシー・タッカーマン(グレタ・ガーウィグ)と台詞の合わせ読みを繰り返すジャクリーン。新しいアメリカのイメージのために演技をするジャクリーンと、そんな彼女を完全に理解した上で演じるナタリー・ポートマンの凌ぎ合いこそが『ジャッキー』を特別な映画にしている。ファーストショットからどうしようもなく「女優」を感じさせるナタリー・ポートマンの素晴らしさ。『ジャッキー』はジャクリーン・ケネディという伝説のヒロインを描いた映画に留まらず、ナタリー・ポートマンという聡明で偉大な女優を描いたドキュメンタリーでもあるのだ。


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『Jackie』


実際の『ホワイトハウス・ツアー』を見れば分かるとおり、この作品のためにジャクリーンのあらゆる映像や音声に触れたというナタリー・ポートマンの声(声色、発音、アクセント!)の憑かれぶりには鳥肌が立つほど驚かされるが、何より素晴らしいのは、ジャクリーンの亡霊を捕まえようとするナタリー・ポートマンをこの作品が捕まえていることだろう。この作品で強く印象に残るショットは、前半のほぼアップで迫るジャクリーンの悲哀を堪えた顔と、大きめの空間を彷徨う姿を後方から捉えた、ジャクリーンの幽霊のような歩行だ。それはジャクリーンがイメージによって描いた光り輝くアメリカの物語(ジャクリーンの語るところの「キャメロット」=王国)と対を成す、喪のイメージであり、その対照的な光のトーンの変化がジャクリーンの肖像を立体的に浮かび上がらせる。


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『Jackie』


パニックになったジャクリーンが狙撃によって飛び散ったケネディの肉片をかき集めて、シークレットサービスが大統領夫妻を守るため車によじ登るーーーケネディが暗殺されたときの映像を思い浮かべることのできる私たちは、あの時、あの車が止まらずにそのまま走り続けていた風景までは知らない。『ジャッキー』におけるジャクリーンの彷徨は、「キャメロット」というイメージを作り出してきた彼女の王国が崩れていく、足を失った心象風景であり、対照的に葬列さえもが「キャメロット」という王国を維持しようとしたジャクリーンの聡明なるイメージ=演技の選択なのだ。その演技は想像を絶する悲しみの上に成り立っている。「キャメロット」という王国を去る際にグレタ・ガーウィグが無言で語りかける仕草。カメラの前で演技をすることそのものに向けられたそのオマージュを思い出し、静かに黙祷を捧げる。演技というものが、怒りや悲しみの上に成り立っていることに。


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『Jackie』


『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』は3月31日公開。

http://jackie-movie.jp


追記*オリバー・ストーンの『JFK』とエミリオ・エステベスの『ボビー』は自分の中でもJFK映画の大・大・大・金字塔。ここに『ジャッキー』が加わることの豊穣さ。記事で触れたジャクリーンが案内する『ホワイトハウス・ツアー』はYoutubeで見れます。『ジャッキー』見たあとに見るのがいいです。ミカチュー(Mica Levi)による劇伴は、劇中のグレタ・ガーウィグ(本当に賞賛すべき名演だと思う)やジョン・ハート(追悼!)のように、どこまでもサポートアクトに徹してて素晴らしい。

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Jackie

Jackie

2017-01-20 『The Neon Demon』/Nicolas Winding Refn

[]『ネオン・デーモン』(ニコラス・ウィンディング・レフン/2016)

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『The Neon Demon』


ネオン・デーモン』を撮るにあたって、カメラマンのナターシャ・ブライエ(あの美しいホセ・ルイス・ゲリンシルビアのいる街で』を手がけた名カメラマンだ)はジェームズ・タレルの光を参考にしたという。『ネオン・デーモン』における光の図形は、ジェームズ・タレルを経由して、その変形する図形=美の形をオプ・アートの「めまい」の作用にまで源泉を辿る。デザイナーロベルトによって「唯一の美」と定義された少女ジェシーエル・ファニング)は、意識/無意識のギリギリの狭間でコントロールされていた己の美を、未知の体験によってコントロールの効かない領域にまで「変形」させてしまう。オプ・アートにおける「めまい」のようにジェシーの体に入り込んでくる様々な光の模様。モデルたちの顔が明滅するあの美しくも不気味なパーティーシーンにおいて、鏡の国に迷い込んだアリスのようなジェシーの体に、閃光のような光が貫通するのは、象徴的だ。いわば、ジェシーは光によってその美しい身体を侵されてしまう。『ネオン・デーモン』において光とは侵入者=悪魔に他ならない。そして光を感知するもの、それが目だ。


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『The Neon Demon』


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『Henri-Georges Clouzot's Inferno』


かつてアンリ=ジョルジュ・クルーゾーは呪われた未完の傑作『地獄』において、ロミー・シュナイダーの美しい体に複数のネオンの光を照射することで"地獄"を表出させた。当時のオプ・アートに影響された『地獄』は暗転した世界における、めまいを起こすような光の侵入=侵食によってロミー・シュナイダーを次々とメタモルフォーズさせていた。変身物語としての『ネオン・デーモン』。岡崎京子ヘルター・スケルター』のごとく整形に整形を繰り返すモデル、美の怪物ジジ(ベラ・ヒースコート)は、自然の美であるジェシーと対置されるが、何よりも脅威であり、悪魔であるのは疑いなくジェシーの方だ。ネオンの光の貫通(儀式のようである)によって体を侵食されていくジェシーは、その度に美のバージョンアップを繰り返す。オーディション会場で既に「みんながわたしに憧れる」存在だったジェシーを涙目で見つめるサラ(アビー・リー)の無言の視線が素晴らしい(シーンが変わるとショットの中心にサラの羨望・嫉妬・敗北の視線がある)。このとき既に写真家ジャックによって、全身を黄金に塗られ、月そのものへのメタモルフォーゼ通過儀礼を済ませていたジェシーは、他のモデルたちの敵わない領域にその存在を踏み入れている。子供の頃から月に憧れ、月に語りかけていたジェシーは無意識の内に月そのものになっていた。


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『The Neon Demon』


ただ一つの発光体へとメタモルフォーゼを遂げたジェシーの運命は、終盤にもう一つの美を手に入れることになる。美しいファーストショットと呼応するジェシーの運命は、ジェシーの身体をも超え、どこにでも行くことができる旅をはじめる。通貨は旅をする。ロベルトの「美は通貨だ」という言葉が超越的に反響する。そのとき、ジェシー視線は、美しい生にも美しい死にもなれなかった女の子たちに無言の切り返しショットとして向けられる。プールの底から。同時に、夜の空から。不在の切り返しショット。それはかつてジェシーが子供の頃、月に語りかけていた言葉とノスタルジックな反響を起こすだろう。ハロー、ムーンライト。ドゥ・ユー・シー・ミー?(わたしが見える?)


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『The Neon Demon』


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Elle Fanning & Nicolas Winding Refn


追記:『ネオン・デーモン』と10本の映画リストの記事。直接的なレファランスとしてはダリオ・アルジェントの『サスペリア』が第一に挙げられるけど、この中では個人的にはトニー・スコットの『ハンガー』と、「旅をする眼球」という意味でアーヴィン・カーシュナーの『アイズ』が近いと思った。前者は大好きな作品。デヴィッド・ボウイカトリーヌ・ドヌーヴ共演による傑作。ハリウッド内幕物(大好物)として近似性を感じる作品は正直言われるほどないかなと思います。むしろケネス・アンガーの著書『ハリウッド・バビロン』を読んでいた方が、想像力の下敷きとしては、いろいろ広がっていくので面白い。ちなみにレフンがエル・ファニングに見せた映画はマーク・ロブソン『哀愁の花びら』とラス・メイヤー『ワイルド・パーティー』。ご参考までに。

http://flavorwire.com/571869/10-films-to-watch-in-anticipation-of-nicolas-winding-refns-the-neon-demon


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ハリウッド・バビロン ?

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2017-01-09 『Nocturnal Animals』/Tom Ford

[]『ノクターナル・アニマルズ』(トム・フォード/2016)

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オールスターキャストによるトム・フォードの新作『ノクターナル・アニマルズ』は、恐怖を美の次元に引き上げた上で宙吊りにするノワール映画の傑作だ。『シングルマン』のコリン・ファーストレードマークであるメガネをかけている間、どこかフェリーニ映画のマルチェロ・マストロヤンニの幻影を身に纏っていたように、また、大きな壁一面の『サイコ』の広告が恐怖の空を召喚していたように、おそらく相当な映画好きであることは疑いようのないトム・フォードヒッチコックへの偏愛を公言している)は、『シングルマン』がそうであったように、ヒッチコックが美の次元まで高めた恐怖のコントロールを、現代の、そして彼自身の恐怖の問題へと置き換えている。


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『A Single Man』(2009)

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『Nocturnal Animals』(2016)


『ノクターナル・アニマルズ』(夜行性動物)が、まず何より素晴らしいのは、そのフェティッシュな手捌きがあくまで上品さを身に纏っていることだ。ここでは、まるで香水の付け方を心得た大人による画面の扱いが前面に表象されている。誘惑のトップノートからラストノートでコントロールの効かない恐怖を呼んでしまう非常に危険な香水、その香り。『シングルマン』でアップにされた女性の唇の色温度を変えることで、またはジュリアン・ムーアアイメイクを執拗に撮り続けることで達成されたトム・フォードによる「野蛮な香り」は本作でも作家の烙印のごとくフィルムに漂っている。『ロスト・ハイウェイ』(デヴィッド・リンチ)のごとく真夜中のアメリカを駆け抜ける車のシーンは恐怖と美しさを同じ次元で描く前半のハイライトだが、この物語(別れた夫から送られてきた小説「ノクターナル・アニマルズ」)を読むためにエイミー・アダムスがメガネ(!)をかけるとき、トム・フォードによる「目」の主題は一気に浮かび上がる。


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『A Single Man』(2009)

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『Nocturnal Animals』(2016)

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『Nocturnal Animals』(2016)


シングルマン』を覆った「見たことのない色をした空」が冷戦による時代の恐怖と個人が抱える恐怖を「見えない恐怖」として二重に映していたように、『ノクターナル・アニマルズ』は小説というフィクションの恐怖と、現実のノンフィクションとして迫る恐怖を同時に画面に提示する。『ノクターナル・アニマルズ』において、目撃の恐怖とは、知覚よりも速いスピードで感知する純粋な恐怖の目に他ならない。エイミー・アダムスの目の動きを追う奇妙なジャンプカットの間にこぼれ落ちるもの。それはフィクションに復讐された者だけが身に纏う目なのだろうか。傑作!


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『Nocturnal Animals』(2016)


追記:トム・フォードは役者さんを撮るのが抜群に上手い。『ノクターナル・アニマルズ』は一見映像のスタイルに目を奪われる映画だが、カメラは常に役者さんの魅力に引き寄せられる。特に男性を撮るのが上手いね。ジェイク・ギレンホールは熱演に走るとアル・パチーノのようだし、「ジム・トンプソンの小説みたいだ!」と保安官をノリノリで演じたマイケル・シャノンの素晴らしさ。何よりチンピラの2人に、昔のゲイリー・オールドマンが持っていたような悪い奴の色気がある!


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ポップ1280 (扶桑社ミステリー)

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2017-01-02 2016年ベストシネマ

[]2016年ベストシネマ

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新年あけましておめでとうございます。さて、2016年ベスト。2016年は20本選ぶの楽勝だなと余裕こいていたら、むしろ削るのに苦労しました。ここ数年で一番映画を見れなかった一年でしたが、それでもとても充実したラインナップだったと思います。初めて正確には映画作品としては撮られていない作品をリストに入れました。しかしこれが映画でないなら、いままで自分が体験してきたものは映画ではなかった、と言えるような作品です。2016年は、個人的にはプライベートで酷い年にしてしまって、早く終わんないかなーくらいに思っていた一年だったのですが(笑)、それはそれ。2017年は失った分を取り戻すところから始めようと思います。という決意も新たにさせてくれる、以下、刺激的な映画たち。


1.『ノクトラマ/夜行少年たち』(ベルトラン・ボネロ)

Nocturama/Bertrand Bonello

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2.『クリーピー』(黒沢清

Creepy/Kiyoshi Kurosawa

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3.『ストレンジャー・シングス』(マット&ロス・ダファー)

Stranger Things/Matt Duffer,Ross Duffer

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4.『皆さま、ごきげんよう』(オタール・イオセリアーニ

Chant d´hiver/Otar Iosseliani

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5.『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(ティム・バートン

Miss Peregrine´s Home for Peculiar Children/Tim Burton

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6.『エイト・デイズ・ア・ウィーク』(ロン・ハワード

The Beatles:Eight Days a Week-The Touring Years/Ron Howard

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7.『キャロル』(トッド・ヘインズ)

Carol/Todd Haynes

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8.『素晴らしきボッカッチョ』(パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ

Maraviglioso Boccaccio/Paolo Taviani,Vittorio Taviani

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9.『ピートと秘密の友達』(デヴィッド・ロウリー)

Pete´s Dragon/David Lowery

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10.『ネオン・デーモン』(ニコラス・ウィンディング・レフン

The Neon Demon/Nicolas Winding Refn

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11.『ハドソン川の奇跡』(クリント・イーストウッド

Sully/Clint Eastwood

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12.『Certain Women』(ケリーライヒャルト)

Certain Women/Kelly Reichardt

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13.『ミッドナイト・スペシャル』(ジェフ・ニコルズ

Midnight Special/Jeff Nicols

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14.『Les Filles Au Moyen Age』(ユベール・ヴィエル)

Les Filles Au Moyen Age/Hubert Viel

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15.『ザ・ギフト』(ジョエル・エドガートン

The Gift/Joel Edgerton

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16.『The Fits』(アナ・ローズ・ホルマー)

The Fits/Anna Rose Holmer

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17.『凱里ブルース』(ビー・ガン)

Kaili Blues/Gan Bi

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18.『エブリバディ・ウォンツ・サム!』(リチャード・リンクレイター

Everybody Wants Some!!/Richard Linklater

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19.『ドント・ブリーズ』(フェデ・アルバレス

Don´t Breathe/Fede Alvarez

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20.『裸足の季節』(ドゥニズ・ガムゼ・エルグヴァン)

Mustang/Deniz Gamze Erguven

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1位はベルトラン・ボネロ。『ノクトラマ』を見てから、脳内でファクトリー・フロアの音楽をこの映画のサウンドトラックしちゃってます。地下鉄で聴くと合うんだよね。LGBT映画の傑作『ティレジア』のデカダン〜『サンローラン』のデカダンに至るまで、ボネロの描くデカダンスの趣きは大きな変還を遂げていて、作品を重ねるごとにどんどん「遅延された自殺」にフォーカスされている。若者たちによるテロの実行よりも、退屈しのぎの遊戯で多くの時間を遅延させる『ノクトラマ』はその到達点ともいえる。長い長い無慈悲なラストシーンは、あまりにも胸が締めつけられた。『クリーピー』には、たまらず久々に2日連続で映画館に通ったほど熱狂してしまった。この映画では、間合いで「侵入」が決まる。


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Nocturama/Bertrand Bonello

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Les Filles Au Moyen Age/Hubert Viel


未公開作について。ローラ・ダーンミシェル・ウィリアムズクリステン・スチュワートの3編で構成されたケリーライヒャルトの新作は、特にクリステン編の素晴らしさに打たれる。女二人がアメリカの舗道を馬にまたがり進む。静かな夜に馬の足音だけが聞こえるそのショットの素晴らしさときたら!ジェフ・ニコルズのタイトルだけでたまらない気分にさせる『ミッドナイト・スペシャル』は、ジェフ・ニコルズならではのストロング・スタイルと、デタラメさが競合する傑作。夜の車が素晴らしい。なんていったってミッドナイト・スペシャルだからね!ユベール・ヴィエルの新作は絵本のようにキュートな作品。ユベール・ヴィエルの作品は現代フランス映画の中でかなり異質だと思う。マイケル・ロンズデールがこどもたちを導く案内役、というところがまたいいね。『The Fits』はボクシング映画がダンス映画になってホラー映画になってSF映画にもなるという、とても面白い作品。演出と競合するカメラがとにかく素晴らしい。『凱里ブルース』は、逆に、長回しの中カメラが暴走するショットもあるけど、それはご愛嬌。ユーモアがあるからね。笑いました。それより劇中でスクリーンに投影される貨物列車のシーンなど、忘れがたいショットに溢れていた。


2016年に公開された作品で、『ブルーに生まれついて』(ロバート・バドロー)、『イット・フォローズ』(デヴィッド・ロバート・ミッチェル)、『山河ノスタルジア』(ジャ・ジャンクー)、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(ノア・バームバック)は昨年のリストに入れたので対象外にしました。昨年のベストは以下にリンクを貼っておきます。


http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20160101


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Le secret de la chambre noire/Kiyoshi Kurosawa

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Metamorphoses/Christophe Honore

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Kaze ni Nureta Onna/Akihiko Shiota

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Diamond Island/Davy Chou


リストに入れたくて最後まで迷ったのが、『ダゲレオタイプの女』(黒沢清)、『ヘイトフル・エイト』(クエンティン・タランティーノ)、『あなた自身とあなたのこと』(ホン・サンス)、『追憶の森』(ガス・ヴァン・サント)、『風に濡れた女』(塩田明彦)、『変身物語』(クリストフ・オノレ)、『Marguerite et Julien』(ヴァレリー・ドンゼッリ)、『この世界の片隅に』(片渕須直)、『ダイアモンド・アイランド』(ダヴィ・チュウ)、『ふたりの友人』(ルイ・ガレル)、どの作品も後年、リストに入れなかったことを後悔しそうなほど好きな作品でした。


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In This Corner of the World/Sunao Katabuchi


主演女優賞は大復活のウィノナ・ライダー!と言いたいところだけど、『キャロル』の二人、ケイト・ブランシェットルーニー・マーラ以外考えられません。ルーニー・マーラレオス・カラックスの新作『アネット』に出演。デヴィッド・ロウリー&ケイシー・アフレックと再び組む新作が今年のサンダンスでお披露目と、快進撃にもほどがある。素晴らしいとしかいいようがない。『キャロル』の全身がピンクに火照ったあの体を君は見たか。『ロスト・バケーション』(ジャウマ・コレット=セラ)のカモメは2016年のベストアニマル。映画としてもひたすら「待機」の時間をブレイク・ライブリーの艶で描く意欲作。クラゲのシーンはすごく新しい!


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実は『未来よ、こんにちは』(ミア・ハンセン=ラヴ)を既に見ているのだけど、2017年に劇場で見たときのためにとっておきます(笑)。『未来よ、こんにちは』のラストショットは、今年見たどの映画のラストショットより美しい、とびきりのものでした。来たるべき、未来。


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L´avenir/Mia Hansen-Love


旧作は見逃していたトッド・ヘインズの『ミルドレッド・ピアース』とケリーライヒャルトのとめどなく美しい処女作『リバー・オブ・グラス』。5時間半以上にも及ぶ『ミルドレッド・ピアース』はトッド・ヘインズの最高傑作だと思う。『キャロル』はこの作品なしに生まれ得ない。個人的にトッド・ヘインズとケリーライヒャルトのフィルモグラフィーを処女作から最新作まで追ってみたのも豊かな体験でした。『リバー・オブ・グラス』は処女作でしか撮れない作品。こんなにキラキラ輝いていて、こんなに危なっかしく暴力的な作品はなかなかない。ケリーライヒャルトは学生時代からの友人トッド・ヘインズと共闘しながら(彼女の作品をプロデュースしている)、ガス・ヴァン・サントゴッドファーザーと呼び、まったく作風の違うウェス・アンダーソンに共感を寄せる。個人的にはミア・ワシコウスカケリーライヒャルト作品に出てほしいのだけど、その内ミアの方からアプローチがありそう。おそらく実現します。みんな寄ってくるんだよね。アメリカの役者さんたちの素晴らしいところです。


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Mildred Pierce/Todd Haynes

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River of Grass/Kelly Reichardt


ところで、いま一番待ち焦がれてるのは前作がとびきり素晴らしかったアルベルト・セラの新作!そしてアナ・ビラーの新作も猛烈に見たい!


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La mort de Louis XIV/Albert Serra

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Love Witch/Anna Biller


最後に。デヴィッド・ボウイに始まり、2016年は尋常じゃないくらい訃報の続いた年で、マドンナジョージ・マイケルへの追悼の言葉「2016年なんて、消え去ってしまえ!」に激しく共感する一年でした。ジャック・リヴェットアッバス・キアロスタミ。とんでも級の二人の映画作家がこの世からいなくなった。サム・スミスジョージ・マイケルへの言葉に倣ってこの言葉を捧げたい。「あなたに賛同していなければ、今の自分はなかった」。誰かに心を奪われるということは、その人に賛同することです。いい言葉だなと思った。ジャック・リヴェットとジュリエット・ベルト。この写真は自分にとって本当に特別な写真です。


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Jacques Rivette & Juliet Berto

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Abbas Kiarostami