2. デフレの定義

2. デフレの定義

第二次世界大戦前までは、「インフレ」「デフレ」という言葉は、学術的に使われる場合も、日常的に使われる場合も、通貨供給量の増加・減少を指していた。物価上昇は、通貨供給量の増加(インフレ)に伴う影響の一つとして捉えられていた。同様に、物価下落は通貨供給量減少(デフレ)の影響として考えられていた。だが、30年代半ばにおきたケインズ改革により、これらインフレ・デフレの意味は急激に変化していった。50年代になると、学術的にも、日常会話的にも、インフレとは物価全般の上昇を指し、デフレはその反対の意味となってしまった。

用語の使い方が変わったことで、通貨問題を分析する際の正確さが損なわれることはない。問題なのは、経済学者や一般人が「デフレ」という言葉を、例外なく消費者物価指数(CPI)の下落などを通じて「平均的な消費者が購入する原材料やサービスの価格下落」と解釈していることなのである。

消費者物価の動きを追うのは、インフレないしはデフレ圧力が存在することを特定するためには意味がある。消費者向け製品は最終的な生産物であり、経済的活動の成果物ともとれるからである。そして、オーストリア経済学創始者Carl Mengerの教えにもあるように、無数に存在する生産要素(資本財・労働力・原材料)の価格は、最終的生産物の価格「により」決定されるのである。(訳注:転嫁理論→Wikipediaフリードリヒ・フォン・ヴィーザー参照) 従って、経済学者、経済予測屋、さらにはアラン・グリーンスパンが生産者物価指数や原材料価格指数を参照してインフレ・デフレを考える時点で、彼らは間違いをおかしているのである。彼らはこういった生産要素の価格が、最終的な生産物価格を決めると信じている。真実はその反対なのである。

消費者物価の全般的な下落として定義する限り、デフレは単位通貨あたりで購入可能な商品価格が増加することにつながる。米国の場合は、1ドルあたりで買えるモノが増える、ということになる。一方、ドルの価値を上昇させるデフレ要素は他にもある。これらデフレ要素は生産性や資産形成に対して良性なものもあれば、悪性のものもある。良性・悪性かは、そのデフレ要素が労働者・資本家・経営者・消費者から自然に生まれたものか、政府や中央銀行による強制的な介入から生まれたものかで決定される。次章以降で明らかになるが、嫌デフレ主義者達は、消費者にとって利益になるデフレ状況を悪魔のように想像して怖がってきている一方で、過去二十年にわたって継続的に発生してきた悪性デフレについてはまったく気がついていないのである。

  • かつてインフレ・デフレの定義は、通貨供給量の増加・減少を指した。
  • 意味が変わったのはケインズ登場後。
  • ケインズ主義=嫌デフレに傾倒している人たちは、そもそもデフレの中身を分析する能力が最初から欠如している。