3-2. 貯蓄デフレ (Cash-Building Deflation)

3-2. 貯蓄デフレ (Cash-Building Deflation)

マクロ経済学主流派の一部は、経済成長に伴うデフレが良性である事に気づいているかもしれないが、そういう人達であっても、通貨備蓄に伴って発生する物価下落が経済の繁栄に貢献するという見方については、笑って片付けてしまうことであろう。備蓄は、個人が消費と投資の額を収入以下に抑え、余剰分を現金または同等の形(主に銀行預金)で溜め込むことを指す。つまり備蓄は個々人が手元に当面用意する「現金残高」を増やすために発生する通貨需要を呼び起こす。「備蓄」という言葉が否定的な意味を持っているのであれば、「現金貯蓄」という呼び方に置き換えても良かろう。

現金貯蓄は、通常は景気後退や自然災害、あるいは戦争の勃発など、将来への悲観や不安に伴って生じることが多い。経済成長やその他の理由で、物価が将来的に下落することを期待して貯蓄に走る場合もあろう。このような状況下では、今手元にあるドルでモノやサービスを買うよりも、将来使うほうがより多くのモノやサービスが買える、と値踏みすることになる。流通しているドル通貨の量を含めた他の条件が一定であれば、このような現金貯蓄はモノやサービスに対するドルの価値を上昇させる。こうして生じる物価下落は、流通するドル通貨の現象ひいてはドルベースで見た賃金の下落につながる。

ドルベースで見た収入が減少するにも関らず、貯蓄によって発生するデフレは経済にとって良性である。この種のデフレは、現金を保持している人たちが、市場でその価値を交換することを我慢することによって引き起こされる。だが、通貨供給量が一定であれば、現金を手元にとどめておくという需要を満たすために、ドル貨幣の価値が上昇する圧力が働き、現存流通しているドル通貨あたりの購買力は上昇する。つまりこれは成長デフレのもたらす結果と同じことで、通貨総量の価値あるいは実質通貨供給の増加が、現金残高を増加させようという圧力になるのである。

貨幣利用の減少は、消費者物価と賃金の減少につながることに注意したい。ただし、実質賃金、すなわち収入あたりで購入できるモノやサービスの総量はほぼ一定と思ってよいだろう。ただし、労働市場における下方硬直性があると、話は別になる。例えば最低賃金を定める法律や、労働組合が交渉代表権を持つような場合だ。このような場合、貯蓄デフレは失業率の増加や、経済活動の賃貸につながる。貯蓄デフレそのものは景気後退や不況には直結しない。消費者主導による貨幣の価値上昇を政治が強制的に妨げるようなことをすると、景気後退や不況につながるのである。 

  • 家計部門が貯蓄を増やすことによって生じるのが貯蓄デフレ。
  • 貯蓄デフレは本来は良性。
  • ただし、最低賃金法など、労働市場の下方硬直性が生まれると、景気後退や不況につながる。