日本は潜水艦技術のオーストラリアへの提供を検討する

 朝日新聞の報道によると、日本の防衛省はそうりゅう型潜水艦を始めとする日本の潜水艦建造技術をオーストラリアへ提供することを検討しているとのことです。
 
(↑そうりゅう型潜水艦)
 オーストラリアが日本のそうりゅう型潜水艦を購入する意向を持っている、という話は以前から一種の眉唾ものとしてですが存在していました。オーストラリアが日本の潜水艦に拘る理由は、航続距離行動半径(要は燃料)や搭載できる弾薬の量などに着目して大型潜水艦を求める風習がオーストラリア海軍にあるというのがその一つでしょう。
 オーストラリア海軍は1950年代に潜水艦の保有を企図し、60年代にイギリスよりオベロン級通常動力潜水艦を6隻購入しました。オベロン級は水中高速型の船体と水上航行性能を重視した艦首を持つ過渡期のタイプですが、水中排水量2410tで航続距離は12ノットで9000nm(水上航行した時の値?)に達します。オベロン級の後継として整備された現用のコリンズ級はスウェーデン海軍のヴェステルイェトランド級を大型化したもので、水中排水量は3353tに増大しオベロン級とほぼ同じ航続距離を持ち、22発の魚雷・ミサイルを装備可能な水中高速潜です。
 オーストラリア海軍はコリンズ級の後継艦にもコリンズ級と同程度の排水量を求めています。排水量が減少することは、コリンズ級よりも航続距離や魚雷・ミサイルの搭載量が減少することとほぼ同義だからです。すなわち、コリンズ級より航続距離や兵器搭載量が減少する艦は購入しないということになります。オーストラリアはアメリカのバージニア級原子力潜水艦を一種の理想とみなすものの、本級の取得は困難なため大型の通常動力潜水艦、特にAIPを備えた潜水艦の取得を現実的な目標としたようです。オーストラリアは大型のAIP潜水艦を提供できるのは日本(そうりゅう型)か韓国(KSS-3)のみだと結論づけ、机上の空論でしかないKSS-3を排し日本のそうりゅう型潜水艦の取得を目指したようです。また、オーストラリアは新型潜水艦には多様化する地域情勢への対応として巡航ミサイル無人潜航機(UUV)の搭載も求めているため小型艦では貴重な搭載量が更に減少してしまうという危惧もあるようです。(ソース)

(↑コリンズ級潜水艦)
 ヨーロッパ製の潜水艦でオーストラリアが購入可能なものは2000tクラスのみだったといいます。そうりゅう型SS以前に導入を検討していたスペインのS-80型潜水艦はスペイン初の国産潜水艦で、水中排水量2426tで魚雷・ミサイル搭載数は18発。近代的な作戦システムを備えトマホークを運用出来ますが、”初物”としての信頼性の低さやその排水量の小ささを理由に装備を見送ったということです。他の欧州の潜水艦、例えばドイツの214型はユーザーにより差異はあるものの水中排水量が1800t〜2000tで航続距離はコリンズ級よりやや長いものの魚雷は12ないし16発しか搭載できず、オーストラリアの要求を満たすことはできません。また、旧東側なので選考対象外でしょうが、ロシアのプロジェクト677(ラーダ級)とその輸出型のアムール型はAIPを装備可能ですが航続距離・魚雷搭載数(18発)においてコリンズ級に劣り、古いキロ級に至っては今更わざわざオーストラリアが導入する理由もありません。キロ級を選定するくらいなら多少は我慢して214型を導入したほうがマシでしょう。

(↑214型潜水艦) 
 つまるところ、オーストラリアの「そうりゅう型を導入したい欲望」は意味不明で気の狂ったような突飛な考えではなく、オーストラリアの事情に裏打ちされた上での結論であると言えます。オーストラリアも太平洋に面している以上東アジアの情勢に対応せざるを得ないわけで、”越境防衛”をモットーに軍の近代化を図る同国には今まで以上の進出能力と長い海岸線を防衛しなおかつ遠方に展開出来るだけの数が必要になります。オーストラリアは従来の潜水艦6隻体制から転換し、次期潜水艦を12隻保有する予定のようです。
 しかし、日本には武器輸出三原則が存在するためそうりゅう型潜水艦を輸出することは不可能です。近年になり、制限は緩和されつつあるものの、こういった事は順序を踏むことが大切です。つまり、技術協力・巡視船など軍事色の薄い装備輸出(現段階)→小火器等の輸出→大型装備の輸出とステップアップしていくのが自然です。小火器等をすっ飛ばしていきなり潜水艦を輸出すれば某国などから抗議が来るのは必至。そこで今回の「潜水艦技術の提供」となったのでしょう。技術協力であれば既にアメリカとSM-3 ブロックIIAにおいて行なっており、同ミサイルでは武器輸出三原則の例外として開発したミサイルを第三国へ輸出することを認めています。武器輸出三原則はもともと「共産圏と国連決議による武器禁輸措置をとられた国、及び紛争地域への武器輸出」を禁じたものであるため、慣例的な事情は無視すると現行のままでもオーストラリアへの技術提供は武器輸出三原則には抵触しない事になります。また、この方法は考え方によってはアメリカへ日本がディーゼル潜水艦の技術を提供することで、あるいはオーストラリア経由でアメリカが技術を入手することで台湾へ新たな近代的な潜水艦を供給できる可能性もあります。まあ、中国もそうなると黙ってないでしょうが。
 
 なお、今回提供を検討する情報は推進システム周りとのこと。