ロシアの新鋭攻撃型原潜「セヴェロドヴィンスク」が進水した

 はやぶさにうつつを抜かしていたらロシアが牽制に来たようです。今日もはやぶさの話をしたかった・・・・・
 当時ソ連で最新鋭だったアクラ級原潜(プロジェクト971)は米ロサンゼルス級攻撃型原潜(SSN)にも匹敵する性能を備えた高性能艦でした。ソ連はその高性能ぶりを使ってさんざんアメリカをいびり倒しますが、アクラ級はチタン製だったシェラ級攻撃型原潜の廉価版(アクラ級は鋼製)としての位置づけだったため”完全な新型”ではなかったのです。それと関係あるかは知りませんが、ソ連海軍では1977年から第4世代原潜の構想が出てきました。正式に認可されたのは1985年のことです。そして1993年に建造が開始されました。

 が、ソ連が崩壊したのが1991年のことです。その後海軍の予算は年々削減され部隊維持で精一杯(あるいはそれすら出来ない)の状態でした。当然新型艦なんぞに資金を回す余裕もなく第4世代原潜として新規設計されたプロジェクト885「ヤーセン型」の建造は遅々として進みません。進水予定も当初は「2004年、。遅くても2007年まで」だったのが「2008年夏以降」になり、「建造を開始した2隻が進水するのは奇跡に近い」などとも言われたりしました。でも、アメリカは第4世代原潜である「ヴァージニア級SSN」を建造し就役させているのでいつまでもアクラ級を改造してごまかすこともできなくなりつつあったのです。なのでセヴェロドヴィンスク市の市長が艦と提携してちょっと背中を押してあげました。ちょっとね。

 そして6月15日にヤーセン型1番艦K-329「セヴェロドヴィンスク」が進水しました。同艦は今年の10月〜11月に引渡し予定で北方艦隊に配属される予定。
(Flot.com/Flot.comThe Voice of Russia)

(↑ヤーセン型)
 で、今年に入ってからヤーセン型1番艦たる「セヴェロドヴィンスク」が5月7日に進水するというニュースがありましたが、何時もの如く延期。でもまあ1ヶ月ちょっとの延期です。

 「これは、21世紀の必要条件を満たすロシアの潜水艦隊の最新の世代です」と開発者のVladimir Pyalov(ウラジミール・ピャロフ)は語りました。進水式にはメドヴェージェフ大統領も出席し、「経済危機のなかにあっても、潜水艦の国内建造に向けた取り組みを強めなければならない」と語りました。

 セヴェロドヴィンスクに搭載される巡航ミサイルについては「これは長距離巡航ミサイルです」とVladimir Pyalovはぼかして語っていましたが、搭載されるのは新型打撃超音速巡航ミサイルP-800オニクス(Оникс)(輸出名称ヤホント=Яхонт)です。このミサイルは対艦ミサイルですが、地上の目標も攻撃することができます。超音速で飛行できるのは宜しいことですが、魚雷発射管には収まらなくなったのでセイル後方のVLSから発射されます。VLSは8セル装備され、1セルにミサイルを3本格納します。P-800の発射重量は3000kgで射程は300km、巡航速度はマッハ2.5程度。推進機構には固体ロケット・ラムジェット統合推進システム(Integrated Rocket Ramjet、IRR)を使用します。このIRRは固体燃料ロケットで超音速まで加速し、その後にラムジェットで飛行します。固体燃料が燃焼した後の空間をラムジェットの燃焼室に使用するオーソドックスなパターンです。制式採用自体は1998年にされているのですが、搭載する新型艦の建造が遅れていたため未だ実戦配備には就いていません。ちなみにこのP-800の推進方式は航空自衛隊向けの次期空対艦ミサイルXASM-3で採用予定のものです。ASM-2にラムジェットを間に合わせられなかった日本ですが(政治的理由でもあるのかな?)ソ連/ロシアはとっくの昔に実用化させています。例えばモスキートミサイルもIRRを使用します。

(↑P-800)

 さて、潜水艦の話に戻しましょう。新しいヤーセン級は攻撃型原潜と巡航ミサイル原潜を統合した位置づけになります。「アクラ級とオスカー級を別々に作るんだったら一つにまとめればいいじゃない。」と言うわけです。ずば抜けて大きなオスカー級よりは巡航ミサイルを搭載したアクラ級の方がコストパフォーマンスには優れていたわけですし、身軽に世界中に展開できる攻撃型原潜の方が便利だとも言えるでしょう。そのためヤーセン型は「 新世代多用途原潜」と表記されることもあります。その名にふさわしく新しいソナー、新しい原子炉、新しいミサイル、新しい対潜ミサイル、新しい艦体を持つ潜水艦、それがヤーセン型です。静粛性も世界最高峰といわれ、アクラ級の後継としての役目も性能上では果たすことができるでしょう。なお、原子炉は完全新規設計の「KPM」が搭載されます。アクラ級/オスカー級のOK-650Bが搭載されるわけではありません。確かに新世代戦略原潜ボレイ級(プロジェクト955)には建造取り止めになったオスカー2級の原子炉が流用されたためOK-650Bが搭載される艦があります。が、それは本質でありません。また、新型のMGK−700「アヤクス」第4世代水中音響総合システムを構成するアレイの一つの大型球状アレイがこれまでのそれを凌ぐ大きさであるため、魚雷発射管はロサンゼルス級などと同様側面に移されています。なお魚雷発射管を側面に配置する手法はヴィクター級(プロジェクト671)でも検討されましたが、12ノット以上の速度での魚雷発射が困難になるとされ採用されませんでした。従来のスキュードスクリューは採用されず、より静粛性に優れるポンプジェットが採用されました。ロシア海軍はポンプジェット推進をディーゼルエレクトリック潜水艦アルローサで試験してきました。

(ヤーセン型の模型)

 ヤーセン型はロシアのドクトリンによれば21世紀のロシアの多用途原子潜水艦の基幹となるべきクラスです。また、ロシアはヤーセン級2番艦「カザン」(仕様は若干異なる予定なので改ヤーセン級とも)を2009年7月24日に起工させました。

 諸元:排水量8600(水上)/13800(水中)トン、寸法は全長119メートル、幅13.5メートル、吃水9.4メートル、速力16(水上)/31(水中)ノット、最大潜航深度600メートル、乗員は32人の士官を含む90人。魚雷発射管8(片舷に4)、VLSを8セル(1セルに3基のミサイルを収納)。兵器は深海ホーミング魚雷、ミサイル、機雷を搭載可能。