幸福度世界一のデンマークに学ぶ(4) 〜小学校・学童

こんにちは。コアネット教育総合研究所松原和之です。

デンマークの教育に関する第4回目です。今回は、今年の9月に視察したロラン島にある国民学校「Søndre Skole」を紹介しましょう。国民学校は、日本でいう小学校と中学校のことですが、視察した学校は、小学校準備段階の0年生から6年生までが通う学校(全校で約200名)と学童保育が併設された学校でした。7年生から9年生は少し離れた別の校舎で学んでいるそうです。

デンマークの小学校(国民学校)の特徴は、1)少人数クラス、2)ICTの活用、3)0年生、4)学童クラブの充実、5)学ぶスタイルの自由度の5つだと思います。

まず、クラス規模についてですが、視察した学校では、どのクラスも10数名から20名程度のクラス人数でした。クラスによっては先生が2名おり、かなり先生の目が行き届いていると感じました。

次にICTの活用ですが、すべての教室に電子黒板が整備されており、ほぼすべての授業で当たり前に利用されています。高学年では生徒がノートPCを使う場面も見られました。
また、学校と家庭の連絡のためのコミュニケーションシステムが整備されていて、出欠の確認や各種連絡、宿題の有無など双方向の連絡がインターネットを通じて行えるようになっています。いわゆるプリントでお知らせするというようなことはないそうです。

特徴の3点目は、0年生の存在です。デンマークの学校は8月から新学年が始まりますが、1年生になる前の4月から0年生として小学校に通います。日本でも小1プロブレムなどといわれて、集団行動がとれない、先生の話が聞けないなど、問題になっていますが、デンマークではこのギャップをソフトランディングさせる方式をとっています。先生に伺うと、とにかく子どもたちが「学校が楽しい」と感じることが大事、と言っていました。
見学した授業でも電子黒板を使った文字遊びのゲームや音楽とともにダンスをするような楽しそうな授業を行っていました。
中には集団に馴染めない子もいましたが、先生(保育士)3名体制で子ども一人ひとりをケアしていました。

4点目は、学童クラブの充実です。デンマークでは共働き家庭が多く、全生徒200名中、150〜180名ぐらいが学童クラブを利用しているそうです(正確にいうと、3年生までが学童クラブ、4〜6年生はジュニアクラブ、7〜9年生はヤングスクールと呼ぶそうです)。朝は6:30から、夕方は16:45頃まで預かるようになっています。夕方がちょっと早いような気がして質問をしましたが、デンマークの人たちはほとんど残業をしないので、この時間で十分だとのことでした。
学童クラブには様々な遊びの道具があり、屋内外で子どもたちは自由に楽しそうに過ごしていました。先生は、専門教育を受けた学童指導員、社会活動指導員、保育士などが担当しており、しっかり子どもたちをサポートしているように感じました。


今日はどの先生が何のアクティビティをやっているか掲示されている。右の画面はタッチパネルで出欠席を児童自身が登録するようになっている。

最後に、視察していて目についたのは学ぶスタイルが多様だということです。小学校3年生の「デンマーク語」の授業では、いわゆる講義スタイルの授業をしていましたが、授業の目標をしっかりと意識させ、また児童一人ひとりの理解度を細かく把握しながら進めているのが印象的でした。


机の右上のカードは、理解できていると「緑」、理解できていなければ「赤」にしておくと先生が理解度に合わせて説明をしてくれる。

6年生の「自然と技術」の授業では、約20名のクラスが5グループぐらいに分かれて別々の取り組みをしていました。ノートPCでエネルギーの仕組みを学んでいるグループ、模型を作って風力発電の仕組みを学んでいるグループ、電気の伝導の実験をしているグループなど様々です。この「自然と技術」という科目は、理科・算数・社会などを横断したカリキュラムとなっていて、資源のない小国としてエネルギーをどう調達し、どう使い、節約をするかということを子どもの頃から学ぶ目的を持っているそうです。

この学校では、講義形式の一斉授業は全体の2割ぐらいで、8割はグループ学習や実験・体験学習だそうです。どうやったら子どもたち一人ひとりの興味・関心を引き出し、一人ひとりの個性を高められるかを考えて授業を設計しているとのことです。

校長先生に話を聞くと、「子どもの幸せ、楽しく学ぶこと」を第一義に考えているとのこと。子どもたちが「自らを知る力」「学ぶ力」「他人と関わり合う力」をどう高めるかが重要と話していました。
デンマークの学習指導要領は日本とは異なり、細かく決められていません。大きな学習目標は指定されているものの、細かな内容は指定されておらず、何を教えるか、どのように教えるかは、学校や先生一人ひとりに委ねられています。
この学校の校長先生も、「子どもたちに合ったやり方やメソッドを先生たちが深く探求していくことが大切」と語っていました。


写真中央の人が校長先生。デンマークでは公立小学校でも校長の経営の裁量が大きい。

日本では、いま、授業のやり方まで学習指導要領に記載しようと話し合われています。全国均一な教育を提供することが目的なのかもしれませんが、もっと学校現場を、先生一人ひとりを信用して任せるような制度にできないかな、と思ってしまうのは私だけでしょうか。