ウクライナはどちらの陣営を夢見るか?

旧ソ連の遺産をめぐって。



CNN.co.jp : ウクライナ大統領、前首相の出国認める法案に「署名する」 - (1/2)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/131018/erp13101823440007-n1.htm
そういえば一週間前のニュースではありますが、ウクライナの前首相ティモシェンコさんが釈放されたそうで。
時事ドットコム:前首相の収監問題解決を=ウクライナに促す−EU首脳声明案
で、関連してこちらのEU首脳声明は、ぶっちゃけかなり踏み込んだ内容ではないのかなぁと。「さらに、ウクライナは「民主主義と繁栄、安定の欧州共通圏」に加わるべきだと訴えている」地味なニュースではありますが、やっぱり上記の釈放と併せて、今後の欧露関係における重要な変化の一歩ではないかと思うんですよね。つまり、このウクライナをめぐる問題は必然的により大きな国際関係の問題へと発展せざるを得ないわけで。それこそ21世紀のヨーロッパ世界を占うほどの大きな議論のひとつ。オレンジ革命の構図が再び。
――果たしてウクライナは、西と東、どちらへ行くのか?
それは懐かしの伝統的グレートゲームという見方もできますけども、しかし現状はそれほど単純でもないんですよね。むしろヨーロッパの側も、ロシアの側も、それが大きな問題になることを望んでいないものの、しかしもしウクライナがどちらかに動き出してしまえば、お互いに対抗せざるをえないという構図。
そんなあまりにも扱いの難しい、ヨーロッパとロシアの、ウクライナという国家をめぐる駆け引きについて。




大前提として、このお話で重要なのは一方のロシアにとって、旧ソ連時代からずっとウクライナという国はそれはもう歴史的に最も重要な国(地域)の一つであるという点であります。連邦の存在意義の心臓と言っても過言ではない。彼らにとってウクライナを失うことは、ロシアがロシアでなくなることと等しいとさえ言えるのです。
衛生国だった東欧諸国を失うことはまだなんとかガマンできた。しかし直接にロシア本国と国境線を接するウクライナ及びベラルーシの存在は、ロシアという国家になくてはならないものである、と少なくとも彼らは考えているわけで。
まぁそれも解らなくはないんですよね。まさに歴史的に見て、ロシアが幾度もヨーロッパの強国から責め込まれながらも、冬将軍などによる相手の損耗によって結果的に勝利できてきたのは、その広大な国土こそがあったからという事実は確かにその通りであります。しかしもしウクライナを失うことになれば、そっからもうモスクワまで目の前。
昨今のシリア情勢でロシアが積極的に動いているのは、黒海への影響力を担保する海軍基地の存在があると当然のように言われていますが、その論理で行くと、ウクライナの存在はそれとは比較にならないほどにロシアの安全保障の問題と直結しているんですよね。地図を見れば一目瞭然であります。ウクライナを失えば、黒海、そしてコーカサスまでもが危うくなりかねない。
『強いロシア』を復活させようとするにあたって、ウクライナ喪失はあまりにも回復不可能なダメージとなりかねない。


一方でヨーロッパの側は、ならばそんなロシアを刺激するようなことをしなければいいではないか、というのは確かにその通りなんです。実際ヨーロッパの内部でもそうした声は少なくない。
しかし、ここで既に旧ソ連の影響下にあった東欧諸国の一部が既にヨーロッパの側に付いている。というそれはもう重要な事実があるわけで。つまり、ここでウクライナの国民がもし仮にヨーロッパ側に付くことを民主的手続きに則って正式に意思表明した場合、それを見捨てることは、そうした東欧諸国の手前絶対にできない、というジレンマがあるんですよね。そこでウクライナを見捨ててしまったら、必ず次は自分の番かもしれない、と考えるのは必然であります。
こうした構図はNATOや私たち日本の日米同盟でも言われている構図であります。もし肝心な時にそれが機能しないのであれば、そもそも存在意義自体に疑問符が付いてしまうものの、しかしだからといってそれで自国にはあまり関係のない危機に巻き込まれるのも勘弁して欲しい。同盟関係や集団安全保障における、典型的なジレンマ。




かくして両者ともに、そこに冷戦時代のような決定的な断層線を復活させるようなことは求めていない。しかし、そんな思惑とは裏腹に、深刻な対立構図に陥ろうとしている彼ら。いやぁどうしようもありませんよね。
このまま行くと、おそらくロシアは再びオレンジ革命の際にやったように、ウクライナ国内の親ロシア派への援助を強めることでしょう。シリアでああして積極的になったロシアがウクライナでそうしないはずがない。この構図が行き着くのはウクライナでの内部対立であり、かつてあったような政治の麻痺であります。
もちろんこれはあくまで一つの予想であります。粛々とウクライナはヨーロッパへと組み込まれていくかもしれないし、あるいはロシア側へと回帰するかもしれないし、どちらも選べず分裂状況に陥るかもしれないし、実は誰もが幸せになれる不安定な中立状態を維持するのかもしれない。



その意味で、やはりウクライナの趨勢が、二一世紀の欧露関係の基本軸を決めていくのだろうなぁと。
がんばれウクライナ