回帰祭/小林めぐみ/ハヤカワ文庫JA

回帰祭 (ハヤカワ文庫JA)


こばめぐハヤカワ初上陸!氏は富士見でデビューする以前、ハヤカワのSFコンテストに投稿していた時期があるらしく、実に20年越し。 ちなみに当時の原稿はまだ残ってるらしい。そんな様子が収録されているのかどうかは知らないけど、インタビューが(多分)掲載されているSFマガジンはもうすぐ発売(asin:B001KY1TEQ)。


まずは、久々にこばめぐらしい世界の構築を楽しめた。地球からの避難船ダナルーが不時着した惑星は生物が暮らすには困難な環境で、人々は避難船の外へは出ることができない。出生率の低下により人工授精が一般に浸透しているが、誕生センターのプログラムの不具合により、男女比が9対1という有様。無用な争いを避けるため別々に育てられた男女は、16歳になると決断を迫られる。男は決まった女性がいれば厳しい環境のダナルーに残り、いなければ強制的に復興しているかどうかも分からない地球への回帰船に乗らなければならない。女にはその二択の権利すらなく(男を指名する権利はあるが)、ダナルーで一生を過ごす。そんな世界の在り方が、人々に深く根付いている。例えばこの世界では夫婦というのが子どもを育てるための制度に過ぎず、それぞれの夫婦に誕生センターが10人の異父兄妹を振り分ける。為に家族間の愛情は薄く、男女ともに不倫(この言葉も正しくないんだけど)が常態化している。例えばこの人工授精が当たり前の世界で、例外的に母親がお腹を痛めて産んだ子どもは、それだけ他の子どもに比べ両親の強い愛情を受け、故に増長する。


……こんな小説を結婚記念日に刊行した嫁を持つ旦那の心境や如何に。家族間の問題、というのは元々こばめぐ作品のテーマの一つではあったけど、『ビール』『魔女』にこの作品と、近年ますます前面に出てきてるような気もする。


物語は約500Pある内の中盤まではそんなダナルーの世界を緩やかに描写していくのだけど、徐々に雲行きが怪しくなっていく。作者自ら構築した世界に楔を打ち込み、やがてラストに至ってそれが決定的になる。ある程度想像できなくもないんだけど、まさか本当にそっちの方に行くとは思わなかったわーというのが読後最初に浮かんだ感想。こばめぐの長編でこういう落とし方したの初めて見た。どっちかというと『ビール』に近いかも。『ビール』で初こばめぐだったという人の感想を聞いてみたい。キーワードはウナギ。こういうのコズミックホラーっていうのかしら。


主人公の少年二人少女一人の組み合わせは『お捜し人』なんかを髣髴とさせて嬉しかった……と思っていたら足元すくわれた。なんだろな、こばめぐ作品でこういう感情を味わうとは思わなかった。特に彼女が魅力的、というわけでもなかったんだけど……。アレがアレした後で二人の距離が徐々に縮まっていく様子を見させられるのが、彼に感情移入してた身としては辛い。……けど気持ちいい。アレには相手の男がいい奴じゃいけない、という持論を崩された。


余談その1。これ、発売日が11月11日であとがきの日付が10月22日ってなってるんですけど……。ラノベレーベルでは2、3ヶ月ブランクがあるというのに。口絵、本文イラストがない分締め切りが遅かったりするんだろうか。いや、それにしても……。余談その2。タイトルは『まさかな』とは全く関係ないらしい。余談その3。筆者紹介の「SF設定を基調としたファンタジックな設定で好評を得る」というくだりになんとなくもにょった。一部作品に関しては間違っちゃいないとは思うんだけど……。余談その4。帯のこの文句って、逆にそれが既に過去のものであるって言っちゃってませんか早川さん。