パリの舗道 Parisian Thoroughfare <パリ家族旅行記最終日(1)>

mi-san20042006-06-26

Genius of Bud Powell

Genius of Bud Powell

クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ+2

クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ+2

  • 空はどんよりと曇って今日もはっきりしない天気だが、雨は落ちていない様子。お昼過ぎまでもってくれれば助かるのだが。すっかり寝坊してしまい行動予定が1時間遅れる。荷物を整理して朝食へ。このホテルには日本人(というより日仏ハーフか)の女性スタッフが1りいることが分かった。日本人宿泊客との少し細かいやりとりは彼女にまかされているようである。子供たちがヨーグルトを欲しがったが、あいにく切れていたので朝食係のフランス人マダムに英語で頼んだら「申し訳ありませんが、今日はもうありません」ということで、僕らは納得した。でも彼女はもう少し事情を説明したかったようで、日本語で説明するために日仏ハーフのマドモアゼルが呼ばれたのだ。要するに「11時ごろにヨーグルトが配達される予定になっていて、それまで待っていただければいろいろな種類のヨーグルトをお出しできます」。マダムはそれを英語で説明する自信がなかったのだ。フランスに来るまでは、日本人と違ってフランス人はみんな英語なんか大丈夫なんだろう、と漠然と感じていたが、必ずしもそうではないようだ(もちろん日本とは格段にレベルが違うと思うが)。「フランス人はプライドが高いので、英語で道を聞かれてもフランス語で答えるのだ」という話を昔よく聞いたことがあるが、真実はひょっとしたら「英語で答える自信がなかった」ではないのか。「相手の言ったことは理解できるが、自分で話すのはちょっと・・・」というレベル。フランスでは、以前は英語は学校で必修科目ではなかったらしい。
  • チェックアウトを済ませて荷物はホテルに預けて観光に出かける。15時19分北駅発のユーロスターに乗るので1時間前には駅に着いていたい。寝坊した分、観光できる時間がかなり制約されてしまった。何はともあれ「凱旋門」を見て「シャンゼリゼ」を歩き、美しい並木を眺めながら美味しいランチを食べたい。今日も地下鉄9号線に乗り、Franclin D. Roosebelt駅で1号線に乗り換え、2つ先のCharles de Gaulle-Etoile駅で下車する。この真上が凱旋門である。広場の中央に大きく聳える凱旋門を眺めると、「パリに来てるんだなあ」という気分になった。凱旋門の周辺から聞こえてくる言葉はフランス語よりも英語のほうが多いようであった。凱旋門の広場へは地下道を通って、入場券を購入して入る。エレベーターで天辺まで上り、パリの360度展望を楽しんだ。放射状に広がる街路と並木道が美しい。

  • 凱旋門を出て、シャンゼリゼの舗道をぶらぶら歩く。時間的にあまりいろいろな店に入る余裕がないので安心、いやもとい残念。まず子供服の"Peti Bateau"へ。ここでなぜかティーンの女の子向きの服を買っている30代女性が約1名。子供用は女の子なら買ってあげたいのが山のようにあったそうだが、我が家の長男次男には「どうせすぐに汚されるだけ」とどうしても考えてしまうそうだ。行列ができているパン屋さん"Paul"で「明日の朝食用のパン」を買う。イギ●スで買うことを思うとこっちで買っておきたくなる気持ちは分かる。最後に"Furla"でブレスレットと時計をプレゼント。日本人の女性店員さんがいて、言葉巧みに40%offのバッグを勧められたが、我がフトコロ事情と相談してお断りした。

  • カフェレストランでランチ。実際のところ、僕が今回パリで最も感動したのは「街路の広さ」であった。シャンゼリゼの歩道など片側3車線の車道ぐらいありそう。そして広い歩行スペースを挟んで車道側(並木沿い)にレストランの客席が並んでいる。これが「パリの舗道」なんだな。雰囲気が良さそうなレストランでランチコースのメニューを注文する。ビーフステーキとサーモングリル、そして僕はビールも。肉の柔らかさ、絶妙な焼き加減、繊細なソースの味。特に有名な店ではなく標準的なカジュアルレストランだと思うが、某王国の大雑把な食事に慣れてしまった舌には感動的ですらある。某国では「ソースを作る」という概念すらなく、外食ですら市販のケチャップが無造作に置いてあるだけだったりするのである。

ラスト・タンゴ・イン・パリ Last Tango in Paris <パリ家族旅行記最終日(2)>

Last Tango In Paris: Original MGM Motion Picture Soundtrack

Last Tango In Paris: Original MGM Motion Picture Soundtrack

  • 食事を終えたらもう1時過ぎ。これからホテルに戻って荷物を取り、北駅に向かわなければならないので忙しい。シャンゼリゼ凱旋門と反対方向に歩くとメトロのFranclin D. Roosebelt駅があるので、1本でホテル最寄のGran Boulevards駅まで行ける。入った出口(変な言い方だな)が1号線寄りだったので、1号線のホームを経由して9号線への乗り換え通路を歩く。今朝通った道と同じだ。朝と同じタンゴの響きが聞こえてきた。乗り換え通路でバンドネオンを演奏しているストリートミュージシャン(辻音楽師のほうがしっくりくる)のおじさんがいるのだ。思い出したのはレオス・カラックスの映画『汚れた血』のワン・シーン。ドニ・ラヴァン演じる主人公アレックスがメトロの通路を疾走するバックに、ゾルタン・コダーイのチェロ曲が流れるスリリングなシーンが鮮明に蘇ってきた。このチェロはストリートミュージシャンが奏でていたのであった。ポケットにあった50ユーロセント硬貨をユウに渡して楽器のケースに入れてくるように言った。するとおじさんはお礼に中国風のメロディーを演奏したのであった(「さくらさくら」など弾いてくれたら嬉しかったのだが)。
  • ホテルで荷物を取った後は、荷物とベビーカーを両方運ぶ難行となる。タクシーを使えば簡単なのだがここまできたら意地。メトロ9号線と4号線を乗り継いでパリ北駅Gare du Nordへ。手際よくイギリスへの入国手続きを済ませてユーロスターの待合室に入った。14時20分。1時間前までシャンゼリゼで食事をしていたことを考えると(そして小さい子供2人と大荷物を抱えて地下鉄を使ったのに)、我ながら要領のよい移動ができたと思う。お土産を物色したが待合室内はあまり充実していなかった(KumiはL'Occitaneで自分用の買い物)。チーズとワインぐらい買いたかったが荷物をこれ以上増やしたくないのであきらめた。
  • 今回のパリ旅行は、(予想通りではあったが)最低限のポイントをサラリと流しただけで終わってしまった。もちろんミシェル・ペトルチアーニのお墓参りなどできないし、辻邦生文学を思いながらのモンマルトル散策などあり得なかった。でもパリという「世界の都」の歩き方はこの3日間でなんとなく分かったので、次回への下見だと考えればいい。帰りのユーロスターでも肝心のユーロトンネルは眠っている間に通り過ぎてしまった。列車がイギリス国内に入ったときホッとした感覚に満たされた。一年前、初めての外国生活にカチコチに緊張しながらイギリスへ来たときのことを考えると、「帰ってきたな」と思えるようになったのだから不思議なものである。まだWaterlooからSouthamptonまで1時間半の行程が残っているのだが。(了)