「『弱くても勝てます』:開成高校野球部のセオリー」を読む

二宮和也くん主演でドラマ化される(土曜日9時)にあたって、以前読んだ原作本の感想を載せました。
ルポなので、そんなに劇的な展開はないですが、そこがいいと思います。高校生達の理屈っぽい受け答えが楽しいです。
ドラマでは、いろいろおもしろくおかしく展開するんでしょうね。当たり前だけど。

追記: ドラマ1回目みました。こちらは、「弱くても勝てます 青志先生とへっぽこ高校球児の野望」というタイトル。なかなか楽しいです。福士蒼汰くん、有村架純ちゃん、薬師丸ひろ子さん、荒川良々さんなど、「あまちゃん」の役者さんたちがけっこう出ています。海老蔵さんが高校球児姿で出てきてびっくり。素振りをするところも見られました。クールなライバル役っぽいです。
架空の高校の話になっていて、で原作とはだいぶ違ってますが、ところどころセリフに原作の高校生が言った言葉が出てきたりして、興味深いです。
http://www.ntv.co.jp/katemasu/

「弱くても勝てます」:開成高校野球部のセオリー
高橋秀実著(2012年) 新潮社 

参加校148校の高校野球東東京大会で、平成17年にベスト16、平成24年にベスト32入りした、開成高校野球部のルポである。
専用のグランドもなく、練習日は週1回、それも天気が悪かったら中止、テスト2週間前とテスト期間中も中止になる。そうした状況で、弱いチームがいかにして強くなったか。という話ではない。

タイトルに「 」が付いているのがミソで、この本を読めば弱くても勝てるようになるのではなく、「弱くても勝てる」と言う開成高校野球部の青木監督のユニークなセオリーの紹介という意味合いが込められているようだ。
冒頭いきなり打順で相手チームにプレッシャーをかける作戦が示される。打順を線ではなく、サークルとみて、下位に1番、2番級の選手を配し、4番打者を2番にする。下位に打たれたことでショックを受けている間に4番がすかさず打ち込むという理屈である。
基本的に、こんな感じ。どさくさにまぎれて大量点を取って、コールドで勝つというのが、青木監督の基本方針。投手の条件は、ストライクを投げられること。フォアボールの連続では、相手チームに失礼、マナー違反だからだという。守備より打撃、サインプレーなし、送りバントもしない。サインを出しても見ないし、見たとしてもサイン通りのプレイができないし、バントもできないから。だから選手はすべて自分で判断する。監督は、ひたすらバットを大振りしろと指示を出す。
やがて週1回の練習時間は「練習」ではなく、「実験と研究」の場と称されるようになる。

彼なりの理屈はあるもののどうにもむちゃくちゃな監督の戦法と、練習試合も含めた試合の様子が報告されるが、間に挟まれる部員である開成高生たちへのインタビューがなかなか興味深い。
生徒のほとんどが東大を受験する超進学校開成高校。相手校の選手には野球のことより「どれくらい頭いいんですか?」と訊かれ、KAISEIと印字された野球バッグをもっていると電車の中でも知らない人に「頭いい?」と声をかけられるという。
何かにつけて頭で考えて行動する彼らのそれぞれの受け答えは、こんな感じだ。

野球の魅力は、「やっぱり『読み合い』ですかね。言い換えるなら『予測』というんでしょうか。相手がどう出てくるのか、頭を使って考えるのが楽しいんです。・・・野球には『間』があるじゃないですか。プレイとプレイの間にひと息ついて思考する時間がある。他の競技にはない魅力です。」物理と倫理・社会、政治・経済が得意なエース・ピッチャー、4番でキャプテンのTくん3年生。

「バットを短くもってみたんです。それで『短く持てば打てる』とわかったんですが、その後またぜんぜん打てなくなりました。正直よくわからないんですけど、短く持ったから打てたんじゃなくて、短く持ったことで何かをしていたことがよかったんですね。」F君2年生、アメリカからの帰国子女。集中力が1時間しか持たないので、塾に行かないで、帰宅して1時間勉強して素振り・夕食、1時間勉強して素振り・入浴、1時間勉強して素振り・弁当箱を洗って、寝る、という日課を組み立てて実行している。国語が苦手だ。

「球が『来た』と思っちゃ行けないんです。『来た』という時点で気持ちが出遅れてしまいますからね。・・・『来た』ではなく『来い』。・・・『来い、来い』と言っても、もうひとりの自分がいて、それが『本当はきてほしくないんだろう』というんです。それで球がくると、やっぱり『来た』とか思っちゃう。・・・でも僕は『来い』と言いたい。」算数の「補助線」が好きで、補助線を閃いた時のうれしさにのめり込んで開成中学に合格したという、サード志望の1年生のTくん。

「野球はピッチャーとバッターの勝負しか注目されませんが、盗塁はランナーとバッテリーの勝負。成功すれば『勝った』と思えるんです。」「僕にとってフォアボールはツーベースと同じ。」開成の盗塁王、2年生のIくん。古文が得意科目。「なんかこう、風情があるじゃないですか。」

「野球やるために東大に行くんです。他の六大学だと選手も100人以上いて、野球推薦で入ってくる人もいるじゃないですか。やっぱり俺が活躍するには東大です。東大からメジャーリーガーになる。」2番打者のN君3年生、試合でも豪快に打つ。本当は早稲田実業に行きたかったのにたまたま開成に合格しちゃった、東大理1志望。

これで、甲子園出場を果たしていれば感動的なんだろうけど、そうはならず地味にルポに留まっているところがいい。