ヴェルデュラン夫人

スワンの恋」はこう始まる。
「ヴェルデュラン家の「小さな核」、「小さなグループ」、「小さな徒党」に加わるには、一つの条件で充分だったが、それは必要条件だった」
それは他からみれば、取るに足らない、どうでも良いような条件だったが、当のヴェルデュラン家のサロンのメンバーは皆、この条件を守っている人々であった。ある年、ヴェルデュラン家の女性信者は二名しかいなくなってしまったことがあったが、その二名のうちの一人が高級娼婦(ココット)のオデット・ド・クレシーだった。

出会い

オデットとの出会い、それはある劇場で、スワンが旧友からオデットを紹介されたことがきっかけだった。
男にはみな、それぞれ型は異なるが、官能の要求するタイプと正反対の女がいるもので、オデットはスワンにとって、まさにそういう女の一人に見えたのだった。オデットはスワンにとってどうでもよいような種類の美人、さっぱり彼の欲望をかき立てず、むしろ一種の肉体的嫌悪感すら起こさせる美人に見えた。

殺し文句

「愛情が恐くていらっしゃる?まあ、おかしな話ですこと。わたしなど、それしか求めておりませんのに。もし新しい愛情が見つけられるものなら、命を差し上げても惜しくありませんわ」とオデットはごく自然な、確信ありげな口調でつけ加えたので、スワンは心を動かされた。さらにオデットはこう言うのだった、「きっとどなたかのためにお苦しみになったにちがいありませんわ。そうして、ほかの女も同じだと思っておいでなのね。その女のかたはあなたを理解できなかったのです。だって、あなたってかたは、とてもほかの人とちがってらっしゃいますもの。わたしが最初からあなたのなかで好きになったのも、そのことなの。わたし、はっきり感じましたわ。あなたってかたは、ほかの人とちがうって」