夕靄(ゆうもや)のなかに沈む太陽

語り手はこう語る。
『最後にジルベルトに会いにいったときは、雨だった。…』
こうして、いつしか語り手から心を移してしまったジルベルトだったが、それでもジルベルトへの想いが断ち切れない語り手は未練たらしく、ジルベルトとは会えなくなってしまっているのに、まだしつこくスワン家を訪問するのだが、そんな語り手をスワン夫人のオデットは優しくもてなすのだった。
そしてそんな優雅(エレガント)で、お洒落で、着こなし上手なスワン夫人オデットに、娘のジルベルトにはない、大人の女性の魅力を感じた語り手は…。

バラの花束

ジルベルトにふられた語り手に優しくしてくれるスワン夫人オデットは、年を増すごとに美しくなり、白いマフ、白貂のコートの似合う、それはそれはシックな女性だったが、そのスワン夫人、オデットは語り手に『私の娘(ジルベルト)はあなた(語り手)に会えればさぞかし喜ぶわ〜』というのだったが、この言葉に天にも昇るような気持ちになった語り手は、レオニ伯母の遺品の中国製の陶器の花瓶を質店に売って、一万フランを手に入れて、これを、毎日毎日、ジルベルトにバラの花束を贈る資金にしようとするのだが、そう思いながらシャンゼリゼを行くと、偶然、向こうから、イケメンの男の子と親しげに歩いてくるジルベルトを見かけて、『アッ、再起不能だー!』状態に陥ってしまう。そして語り手は、その一万フランをソープランドで使ってしまうのだった。
ふう。
以上で『失われた時を求めて』第二篇『花咲く乙女たちのかげに』、第一部『スワン夫人をめぐって』は終わり、次回からは第二部『土地の名・土地』へと移ります。