ヴェネツィアにてー忘却の法則-1

時々、夜見る夢のなかに、アルベルチーヌが姿を現すことがあった。
夢のなかのアルベルチーヌは、語り手の愛する作曲家、ヴァントゥイュhttp://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040824のお嬢さんとの同性愛を否定し、「自分はなんにも悪いことなどしていない、ただヴァントゥイュ嬢の唇にキッスをしただけ!」などと言うのだったが、語り手はそこにアルベルチーヌの嘘の臭いを嗅ぎ取り、目覚めてからも女性同士のディープキスに嫉妬するのだったが、そんななかにも少しずつ、語り手のアルベルチーヌへの忘却は始まっているのだった。
その忘却は三段階で構成されている。
第一段階で語り手は、「とても愛していた女性を亡くした」という言葉を口にして涙ぐみながら、実は自分がそれほど悲しみを感じなくなってきていることに気付く。
第二段階はその六ヵ月後。語り手はアルベルチーヌと「深い仲」にあった女性、アンドレと性的関係を持つのだったが、そのアンドレから、アルベルチーヌはシャルリュス男爵が惚れた男、ヴァイオリニストのモレルのエッチした女の子たちを廻してもらって、同性愛(レズビアン)の対象としていたことを聞かされるのだが、それは今の語り手にとって、「遅すぎた不幸」でしかなく、もう語り手の心には響かないことに気付く。
そして、第三段階がヴェネチアへの旅だった。