角田光代、瀬尾まいこ、藤野千夜、椰月美智子、野中ともそ、島本理生、川上弘美著「Teen Age」

双葉社刊、1300円+税



文字通り、ティーンエイジャーを描いたアンソロジーだ。
最近、流行り気味のアンソロジーだが、この本は、僕的にいって、かなりすごい。
藤野千夜川上弘美瀬尾まいこと、大好きな作家が3人、
角田光代、野中ともそと、けっこう好きな作家が2人。
7人中5人とは、かなりピシャリとストライクゾーンを直撃してる。
題材的にも、かなりいい感じ。ノータイムで購入、即読み、ってトコだ。


女子校中等部の寮で同部屋の、きまじめな先輩、ハミちゃんとの交流を描いた、
角田光代の「神様のタクシー」をさらりと読んで、
次なる作品は瀬尾まいこの「狐フェスティバル」。


田舎町で行われる日本版ハロウィン「狐がえり」の季節がやってくる。
伝統の踊りが、少子化で危ぶまれる中、
都会からの転校生、三崎花子を仲間に加えるべく、〝僕〟は三崎家に日参する。
都会のコと田舎のコのカルチャーギャップを、中学生の視点から描いた作品だ。


三崎家の両親は脱サラして(これもなかなか懐かしい言い回しだけど)、
手作り無添加商品や無農薬有機野菜を売って生計を立てている。
田舎の人間からしてみたら、田舎の風習にはなじまないくせに、
やたらと自然賛歌をしてみせる、鼻持ちならない連中だったりするのだが、
それもけっこう田舎の人のエゴをサラリと描いて見せるので、
あんまり不公平感がない。ここらへん、やはり瀬尾まいこのうまさだ。


かといって、三崎花子の母も、〝僕〟を招いた際に出すお菓子は、
街で買った、ふつうの真っ黄色のモンブラン
不思議がって尋ねると
「時々、くたびれてしまうの。無添加とか有機野菜だとか。
 だからどうしたのって思うのよね」。あらら、自己否定…
いろいろ、悩みは尽きないものだ、としみじみ思う。


地元の祭への参加をいやがる、三崎花子に対して、〝僕〟が気づいたこと。
〝僕〟が都会の学校に転校して、
毎日ヤンキー風の同級生にヒップホップ大会に誘われたら、やっぱりイヤ…
そうね、そうかもね、とも思ったが、ひとつ気になる点も。
それは都会の学校ではなく、片田舎ではないかと。
埼玉とか千葉の、都心近郊のターミナル駅とか、よく駅前の広場で練習してるし。


そんな想いを残しながら、藤野千夜「春休みの乱」に突入する。
この人に感心させられるのは、導入部からいきなり物語世界に引き込む吸引力だ。
いきなり、知らない男の子から手紙をもらったはるか。手紙は微妙。
「突然すみません。怪しいもんじゃありません。
 今度電話します。じゃあまた」。十分怪しいよ、こんな手紙出すヤツ。
この手紙を横軸に、不思議な力を持つともだち、
しーちゃんとのヘンなやりとりが描かれる。さすが、藤野千夜。話けっこうヘン。


そう、そのしーちゃん。ヘンな超能力がある。
怒らせると、ちょっとモノが動いたり、こわれたり…。
でも、はるかはたいして気にしていない。力そのものが大きくないと知るや、
「その程度だともう気のせいなのかなんなのか。
 あー、小清水さんまたやってるよ、と徐々になじんでしまい、〜
 〜あんまり無茶なことさえされなければ、だいたい許してしまいそうなのだった。
 もう友だちだったし」。
けっこうテキトーなコだったりする。すごくいい感じで投げやり。
この諦観、諦念は、藤野千夜テイストが出ていて、とても心地よい。


続く椰月美智子は「イモリのしっぽ」。
中学の生物部両生類爬虫類班の部長を務めた〝あたし〟と矢守くんの会話がイカしてる。
むかし親しんだ絵本の話で盛り上がる。
話のあらすじを説明すると一方が「で、教訓は?」。
それはいいんだけど、
モグラのお隣さん同士が、お砂糖の貸し借りとかしてる、ようわからん話の教訓は
モグラの世界ってことよ」と〝あたし〟。
へぇ、の後に、ふまじめに「奥が深いんですね」と付け加える矢守くん。
すっとぼけた味が出ている中学生2人。けっこういい感じだ。


野中ともそは「ハバナとピアノ、光の尾」。
これをハバナを舞台にした、おとぎ話。
日本人観光客の描き方がちょっとステレオタイプで、やや鼻につくかも。


島本理生の「Inside」は、リアルな感情描写がけっこう楽しかった。
入院した母の様子を伝える、父への電話。
父は「わかった。それより、帰りに電池を買ってきてくれるとうれしいんだけど」。
しかし、娘は娘であっけに取られながらも「300円返してくれるんだろうか…」。
せこくて、情けないけど、何となくリアルだったりする。
こんな感じで、ボーイフレンドとの初えっち攻防戦も、
センチメンタリズムと、リアリズムが微妙なバランスでちりばめられる。
これまた、なかなかいい作品。


そして大トリを務めるのが川上弘美の「一美ちゃんのこと」だ。
これはやっぱり最高。冒頭いきなり笑えるのが、予備校での一美ちゃんの様子。
「前方に座って皆勤しているくせに、一美ちゃんの背中のあたりには
 あきらかな〝やる気のなさ〟が漂っていた。
 というか、〝めんどくせえや〟という感じ。
 〝やる気なし〟というほどの〝気〟もない」。絶妙のキャラクター描写だ。
これだけで、一美ちゃんの今後の行動が見逃せなくなる。


一美ちゃんには、ある秘密があったりするんだが、それはそれで笑える。
そんな一美ちゃんが力説して見せたりするのは、
「一美ちゃんは〝反抗期〟で〝やぶれかぶれ〟で
 〝何かすごいことやってやる〟という気分なのである、ということ」
それに対してあたしは「〝はあ〟とぼやぼやした反応をするばかりだった」。
すっとぼけた人たちばっかり。やっぱり川上弘美の世界だ。


一美ちゃんがとうとうやり遂げる「すごいっぽいこと」も、
なかなか味わい深くて、笑えて、でも何となく切なくて、の絶妙感抜群。
さまざまな出来事を乗り越えて、2人が達観するある真理も、
これまた味わい深いので、ぜひにお読み頂きたい。笑えるけど、味わい深いから。


長くなったけど、結論。
名前の豪華さだけでなく、中身もクオリティ高い。
必読の一冊、は言い過ぎかもしれないけど、お好きな人にはぜひお勧めしたい。
よくありがちな、各作家の入門編的なアンソロジーではなく、
純粋に楽しい読書が楽しめたな、と実感できる一冊だった。