阿賀の記憶

さて、「阿賀に生きる」から10年。再びこの地を描いたものが「阿賀の記憶」だ。
いきなり、森林の道をうねうねと、
木漏れ日の光のなか、それも
逆光で真っ白に包まれて進むショットで始まる。
そこに老婦人の声がのるのだけど、例によって方言が強く聞き取りずらい。
しかも今回は字幕がでない。
だから何だか日本語なのに外国語、というよりも呪文のようで
おびただしくも眩しい光の風景をあいまって、
どこにいるのかわからなくなる。


更に映し出されるのは、荒れてしまった田んぼ。
ナゼアレテシマッタノカ。(ソレハキット…)
それから印象的だったのは、
土間のストーブの上でしゅんしゅんと湯気をあげる薬缶。
これを延々と写し続ける長いシーンがある。
その向こうに仏壇が見え、(アア、ダレガソコニイルノ)
人は見えないのに会話(といっても呪文のような)が聞こえてくる。


路地のなか、瑞々しい緑を白い光が刺し、視点をぼやかす。
そこから杖をついた老人がでてきて、向こうの道へ出る。
そこに何があるのか。何を見つめているのか。


ゆったりとした空気が流れる阿賀の風景は
何も変わっていないようで、確実に変化していた。
残酷さと虚無と無常と、、、
人生は限りあるものだということを痛感させられるのだ。
散文詩のような映画だった。