「幻影城の時代 増刊 編集者断想集成」

大阪の「珈琲舎 書肆アラビク」さんにお世話になり、入手しました。

島崎博氏の来日記念として出版された同人誌です。内容は「幻影城」の編集後記を再録したもの。編集者としての誌面紹介が中心なのはもちろんですが、会社運営、雑誌の出版の苦労などがチラホラと書かれているのも興味深いところです。当時の読者からの反響の大きさも伺えます。
なお、同書は「書肆アラビク」さんにて扱っています。販売価格は1,000円です。
http://arabiq.jugem.jp/?eid=207

乾くるみ『カラット探偵事務所の事件簿1』

カラット探偵事務所の事件簿 1

カラット探偵事務所の事件簿 1

基本的にはオーソドックスなミステリ短編集。真相部分が普通とはちょっと違った印象を持つのが特徴。目標地点に落ちていない印象がある。また、妙なところで凝ったりするのが乾くるみらしい。「卵消失事件」の暗号とか、「別荘写真事件」のクロスワードとか。
ラストのネタは、「おまけ」かな。

ギルバート・アデア『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

こりゃ、日本の新本格そのままだな。わざわざ翻訳で読まなくてもいいかも知れない(もっと技巧的に優れた日本人作家作品もある)。
しかし、この種のネタが決して主流ではないと思われる現代英ミステリ界で発表されたのは凄いと思う。個人的には楽しかった。

トム・ロブ・スミス『チャイルド44』

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

これは素晴らしい。今年最大の収穫の一つ。
様々な要素が組み合わさっているが、最初から最後まで一気に読める。主人公のレオや妻ライーサはもちろんだが、どんな端役までもそれぞれドラマを描ききっている点も素晴らしい。そして「ソ連での連続殺人」という特異性。真犯人は中盤で明かされるが、それでも最後には驚きが待ち受けている。動機も異様だ。
この事件の異常性は、以下の文章に集約されている。

われわれの法のシステムはむしろこの殺人鬼が好きなだけ殺すのを手伝ってる。だから、こいつはまたやるでしょう、何度も何度も。その間、われわれは見当はずれの人間を逮捕しつづけるんです。無実の人々を。われわれの嫌いな人々を。社会的に受け容れられない人々を。殺人鬼がそのそばで次々と殺しつづけてるというのに。
(下巻62ページ)

理想国家ソ連に殺人事件など存在しない、という思想。特殊なイデオロギーに支配されている国家の恐ろしさが判る物語だ。