新聞社〜破綻したビジネスモデル

日本における旧世代のメディアを支配し、確固たるビジネスモデルを築いていた新聞社。Web進化の過程で、このモデルの価値が変化し、淘汰されていくのは火を見るより明らかだ。

新聞社―破綻したビジネスモデル (新潮新書)

新聞社―破綻したビジネスモデル (新潮新書)

元・毎日新聞常務の河内孝氏が、新聞社のビジネスモデルを当事者として語り、その歪みと限界、そして、今後の生き方を提言した本。

まず、この本で知ったことは、既存メディアの極めて保守的な利権体制。正直、想像してた以上です。この国の新聞・テレビは、すでにメディアの本来の機能を全うすることは極めて難しいシステムになってしまっている。


例えば、新聞社の収益構造。部数以外の数値がほとんど公開されていない。本書で、わかりやすく、ページを割いて説明されているが、ややこしすぎて興味が失せる。たとえば、販売数値は、部数を増やして広告収益力を増すための『押し紙』に代表される、販売店との数値調整のせいで謎だらけ。末端販売店の強引な拡販もコントロールしきれない。経営層にも正確に把握するのが難しいそうだ。
時代時代で既得権を守るために創られてきたのが、この複雑なシステムだ。

テレビも、新聞社の収益構造を支える、メディア支配の大きな柱の一つになっている。本来、メディアの中立性を保つために、一社一局制を規定したはずの放送法も、いろんな政治的・経済的工作の結果として、読売、朝日、毎日などの新聞社支配下に分配されてしまった。このような支配構造では、もはや競争は生まれない。本来、メディアに求められる品質上の多様性は望むべくも無く、視聴率にしか感心が向かない。ちょっとお笑いが流行ったらどのチャンネルも同じような番組を作ってみたり、同じ時間帯に似たような番組が集中してみたり。今のテレビには保守的な姿勢が明らかに表面化している。

新聞社が主導になり、新聞・テレビという土壌で築かれてきた既得権の巣窟。これが、日本のメディアの実情である。
Webの進化で情報に対する価値が変遷しつつある中、今の新聞・放送局は、かつてない危機にさらされている。しかし、これまでの複雑なシステムでは収益を保つのが難しいどころか、その歪さが目立ち、綻びの方が表面化してきている。この、終焉に向かうビジネスモデルを、本書では『沈み行く護送船団』と表現している。

やはり、興味があるのはIT社会におけるこれからの新聞社のあり方だろう。
新聞・テレビという既存メディアの長い支配で築かれてきたのは複雑な利権構造だけではなく、優れたノウハウ、プロの記者というリソース、情報蓄積、そしてブランド力があるわけで、まだまだコンテンツ提供側の中心に存在する。新聞社の役割はまだまだ終わっていない。

筆者は、新聞社で生涯をすごし、その仕事を本当に好きなんだと思う。会社を引退して、冷静に、客観的に新聞社を見つめなおした本書も、新聞社の未来を前向きに考えたものだ。非常によく勉強してるなぁ、と素直に尊敬する。
最終章、「IT社会と新聞の未来図」の考察はこれといった対応策に行き着いていない。正直、具体性に欠ける。しかし、このキーワードが印象に残った。

『「知」への欲求。これに応える』

この新聞の原点に、本質が潜んでいると思う。