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オブジェクト思考ブロギング

フェミニズムとparenting:『サイエンス』誌編集主幹Dr.Marcia McNuttへの期待

ジェンダー間のアンフェアさが話題になることが多い。中でも育児などのケア負担のアンフェアさが問題だとすると、これをフェミニズムという「女性問題」的な視点で語るやり方は、論理的に妥当な議論に成功したとしても、ともすると問題の悪循環を生み出しかねない。女だけで強いショートサーキットを形成して、男は無関心か反感のままというような意味で。「相撲(議論)に勝って、勝負(問題解決)に負ける」という状況になりかねない。


もし育児のケア負担が、ジェンダーによるアンフェアな処遇に繋がっているとしたら、この部分を、できるだけ男の巻き込みを最大化する形で「問題設定」することはおそらく有用なアプローチだ。言うなれば、フェミニズムという形の問題設定から、parenting/parentismという形で問題設定すること*1


という意味で、8月15日発行の『サイエンス』誌の特集が、"Parenting"であったのは興味深い流れだ。
http://www.sciencemag.org/content/345/6198.toc
神経科学から進化論、産科、精神医学、社会学までと多視点で総説が並んでいる*2。最初のキックオフ・エディトリアルの"Parenting: A legacy that transcends genes"というタイトルには痺れた。サイエンスという「男のロマン」の極北のひとつに打ち立てる楔としては、悪くない問題設定だろう。


『サイエンス』誌は、2013年に編集主幹がDr. Marcia McNutt(女性初)*3になって、どういう方針になっているか語れるほど知らないけど、特徴らしきものは色々出てるようだ。


例えば、
5月25日:格差問題の科学(5月23日号Science誌特集) | AASJホームページ

我が国ではScience誌と言うと、科学論文を発表する超一流雑誌としてしか受け取られていないようだが、21世紀の新しい科学を考えようとする明確な意志と使命感を感じる。

7月24日:食料問題に対するScience誌の本気(7月18日号Science誌掲載論文) | AASJホームページ

持続可能な地球維持のための政策には科学的分析が必須と考え,この問題に挑戦する論文を優先して掲載し、トレンドを造ろうとする意志だ。


専門は地球物理学とのことだが、気候変動という政治マターと地球物理学という学術世界の二つの経験から、社会問題と自然科学と接続するような多視点かつ問題解決志向な知の創造を目指しているのだろうか。従来のような学科ベースで専門知を掘り下げるようなDiscipline-based Scienceから、特定のトピックに対して使えるアプローチは全部使うといったIssue-driven Scienceへの転換という感覚があるのだろうか。


プライベートでも3人の子供がいるらしい。これだけのキャリアを築きながらの子育てにも相当エネルギー要しただろう。今回の特集"Parenting"にどのくらいコミットがあるかは知るよしもないが、今後の編集展開も楽しみだ*4


雑誌自体のコミットは置いておいても、ジェンダー間のアンフェアさの解決の糸口として、Parentingを理性的に議論することがひとつのきっかけになりうるとしたら社会的にも重要なアプローチだし、神経科学から進化論、産科、精神医学、社会学の発展の方向性としても学術的な面白さがあると思う。何より、親になると子供については訳わからないことだらけで、より良きガイドがあれば、直接的に多くの人も助かるはずだ。結果的には全人類にとっても。

*1:言うまでもなく、血縁家族に限った話ではない

*2:日本ではこういったラボもある:黒田 公美, M.D., Ph.D. | 研究室エクスプローラー | 理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)

*3:Marcia McNutt - Wikipedia, the free encyclopedia

*4:念のための注釈だけど、McNutt氏がフェミニストだとか、そういう志向の人だという意味ではない。あくまでも個人的な期待。