「相当の努力」の話。または著作権者データベースと裁定制度について


(本文の前に注を足したのでこちらも参照下さい)


なあおい。

日本文藝家協会については、国立国会図書館の蔵書データベースや日本経団連の書評データベースからデータを譲ってもらう方向で交渉中」(三田氏)

著作権17団体、権利者データベースを2009年1月に開設 | 日経 xTECH(クロステック)


「図書館は無料貸本屋」とか言ってた三田氏が図書館のデータ借りようとしてるってのもかなり皮肉なんだが,それよりさ。

報道関係者向けの説明会に登壇した、著作権問題を考える著作者団体協議会議長の三田誠広氏は「権利者を探すために利用者が相当の努力をする代わりに、我々が相当の努力をしてデータベースを作る。このデータベースと(著作者の意思表示システムである)クリエイティブコモンズ、裁定制度を併用することで、二次利用の申請手続きの利便性をかなり高められると考えている」とした。

著作権17団体、権利者データベースを2009年1月に開設 | 日経 xTECH(クロステック)


この「相当の努力」ってのは著作権法67条にある以下の記述の話なんだろうけどさ。

第67条 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により利用することができる。

著作権法


この「相当な努力」って,どのくらいの努力だと思う?
具体的にはこんな感じ。この制度をもっともよく利用している国立国会図書館近代デジタルライブラリーの事例。

今は運用が整備されてまいりましたので、基準が明確になってきているのですけれども、実際に我々が行いましたのは、まず本を見て権利者の方を探し出して、それを様々な事典や名簿によって調査をして、更に連絡先を判明させるために、地域別の人名事典、全部で数百冊の事典を使って探す。更に出版社とか、学会、研究者の方、所属団体、地方自治体、こういったものを全部調べて、3,000近い機関に照会をして探し出すということをやっております。その上で分からなかった部分については、私どものホームページのほうから公開調査をするということで、多くの方から情報を頂くのですが、4万名ぐらいの方については結局分からないということで、裁定を利用させて頂いたということでございます。

文化審議会 著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第2回)議事録・配付資料−文部科学省


むかし図書館関係のイベントで実際の担当者さんの話も聞いたことがある。その話では,こうした資料や照会を用いた調査だけでなく,過去の住所がわかってる各権利者に手紙を出して,それが返ってこないような場合は直接その家まで行って,ってことまでしたケースもあったらしい。すべての場合にそこまでしてるわけではないとは思うが,近代デジタルライブラリーはそれくらいの汗水たらした努力によって作られている。
「相当な努力」というのはそれくらいの努力を意味する。Googleで一日かけて調べましたー,とかのレベルじゃないんです。日本で一番資料の集まってる場所のひとつである国立国会図書館で,最も調査の長けたその図書館員が探しに探し,その上公開調査までして,それでも半分もわからんのです。そしてそれだけしてはじめて裁定制度が使えるんです。


それを何だ? 国会図書館から借りた蔵書目録を流用した程度で「権利者を探すために利用者が相当の努力をする代わりに、我々が相当の努力をしてデータベースを作る」だ?
おまえら馬鹿か? なんで初動調査レベルでしか使えてない国会の蔵書目録*1を流用する程度で「相当の努力」なんだおい。そんなもんで済んでたら最初から8割の著作物を裁定制度にかけてただろよ。


まあその他いろいろつっこみどころ*2はあるんだけど,なんか書いててイライラしてきたので削除。もうなんだろうな,見込みが甘すぎというかなんというか。国会さんの苦労話を聞いたことがあるだけに,連中が軽く「相当の努力」とか使うのは本当に不快。頼むからやめてくれ。

*1:当然国会図書館の中の人は,蔵書目録なんて「本を探す」レベルまでしか使ってないのですよ。「目録<現物」が当然なわけで

*2:国会にも雑誌や新聞の掲載記事のデータはほとんどないぞーとか,データ入力なんて人海戦術なんだしもっとキツいのはいくらでもあるだろとか,つーかそんなの1年半で作れるとか本気で思ってんのかとか