本日の読書 伊井直行『愛と癒しと殺人に欠けた小説集』

愛と癒しと殺人に欠けた小説集

愛と癒しと殺人に欠けた小説集

 通常の後書きがまえがきにあるという、なかなかにユニークな趣向の作品集。大盤振る舞いですね(笑)。
 どの作品も「小説とは何か」を考え、かなり意図的に書かれている実験的な作品とみた。特に後半の3編は「ストーリーを排除し、日常の出来事をできるだけ起ったままに書く」ことを試みている作品なのだとか。なるほど。「えりの恋人」はその小説的手法もさることながら、主人公だけでなく読み手をも不愉快不機嫌にさせて、そういう意味でも素晴らしい作品だと思う。
 日常を一時だけ非日常にしてしまうスリリングなヌードになる行為。いつか訪れるであろうXデーをハラハラドキドキしながら待ちわびていると…家族の物語(年代記)からぽーんと神話ですか!飛躍がスゴすぎる「ヌード・マン」に、前記の不機嫌小説「えりの恋人」、あったかくてちょっぴり哀しい(でもユーモアはある)家族の物語「掌」の印象が深い。難解そうだと敬遠していた伊井作品、今年は読もうかな〜。