島で草が木になる理由:偉人たちの仮説

 本来、草である種が、隔離された海洋島などで木本化するということがあることは以前にふれました(島で木になる植物)。



小笠原諸島の固有種ワダンノキ(キク科)


なぜ木本化するのか?


いくつかの仮説が提唱されています。


1. Competition Hypothesis(競争仮説:Darwin 1859)

 島にたどりついた祖先種(草本)がより高く成長して灌木や高木になることで競争的に有利になる場合。ダーウィンが「種の起原」の中で述べている仮説だそうです。島という競争者が少ない特異な環境だからこそ、草がより高い位置で光を得る必要があり木になる方が競争に勝つことができるというもの。


2. Longevity Hypothesis(長寿仮説:Wallace 1878)

 草が木本化することでより長い生育期間を獲得し、これが送粉者が少ない島環境では有性生殖の機会を増やすことになるというもの。ウォーレスの「Tropical Nature and Other Essays(邦訳書:熱帯の自然)」にて述べられているようです。


3. Moderate Insular Climate Hypothesis(温暖気候仮説:Carlquist 1974)

 多くの島は最も近い陸地に比べてより温暖で湿潤なことが多く、これが草本種を木本形態へと発育を促進しているという仮説。カールキスト(Sherwin Carlquist)が名著「Island Biology」の中で提唱しているようです。


 ダーウィンは「ビーグル号航海記」で世界の島々の自然史を紹介しているし、ウォーレスは「マレー諸島」という名著以外にも「Island Life」(1880年: 1903年3rd edition)という書を記しているように、島の生物学の創始者といって良いでしょう。彼らほどは知られていませんが、カールキストもまた、「Island Life」(1965年)と「Island Biology」(1974年)を著しており、島の生物学史上に名を残している研究者の一人です。


 この三人が提唱した仮説をながめることで、それぞれの考え方というかスタイルというのが垣間見える気がします*。


参考文献
Whittaker RJ, Fernandez-Palacios JM (2007) Island Biogeography: Ecology, Evolution, and Conservation. Oxford University Press.


*例えばカールキストは植物解剖学的な手法をとる植物学者でした