クローラーという式神とプログラマーという魔術師

いま岡崎市立中央図書館事件というのが起きています。
簡略にまとめると

  • 1.図書館の書籍検索サービスを自動で検索するクローラーを作ったらサーバーが落ちて逮捕された。
  • 2.Web技術者の目から見ると問題のないアクセスだが、警察はそれを認識できず犯罪とした(起訴猶予)。
  • 3.Web技術者界隈で検索サービスの設計が(Web技術者の視点から見れば)劣悪で、通常のアクセスでもサーバー停止するバグがあることが証明された。
  • 4.まだ「Webサービスとして劣悪な設計」という社会的コンセンサスはなく、さてどうしたものか←いまココ。


本人によるまとめはこちら


これだけならここに記事かかないんですが、昨日面白いつぶやきがまとめられました
「クローラーってキモイ?」
このタイトルを見た瞬間に自分の中でなんとなく腑に落ちるものがありました。
この段階では 「なるほど。一般人的*1にはあり得る」 という理屈なしの納得感。


ただ中身を読んで再度びっくり。
一般人ではなく社内SE(女性)の意見でした。

プログラマの妻に #librahack のことを話したが、「図書館側との事前協議もなく自分の都合だけで勝手にプログラムでアクセスするのは礼儀も知らない気持ち悪い人間だから、逮捕されて当然」と言われた。なお、プログラムの瑕疵については理解していて呆れるとは言っていた。

twitterでの反応には「気持ち悪いって頭悪いんじゃないの」的な技術者寄りの意見や推測が多いですが、もしかして法律だとか知識だとか、そういう問題じゃないかもということを書いてみます。



まず書いた人がプログラマだと思っていない段階での
クローラーは気持ち悪いという感情は有り得る」
という私の最初の直観について、なぜかと考えてみました。

  • 1.定期的に情報を取得するというのはストーキングでキモイ
  • 2.商行為で行うならともかく、個人でそこまでやろうと思う動機がキモイ
  • 3.そんな情報を必要とする(知的欲求が高い)ことがキモイ
  • 4.そんな得体のしれないことができるなら、なにか私にもされそうでキモイ
  • 5.そんな得体のしれないことができるような存在は私と違うし想像もできないのでキモイ

直観をぱっと掘り下げていくとこんな感じでした。
で、この4と5あたりは私も実は感じることがあります──googleに対して。


ここまで考えて、はた、と気づきました。
これってクローラーというかプログラミング、特に5あたりは高度に知的な活動すべてに共通する評価かな、と。
裏を返せば古来から人が魔術師に対して抱いていた怖れは、こういうものではなかったのか。


プログラマ、それも自宅で自分の知的欲求のためにクローラーを組むような人というのは、つまり式神を使う陰陽師と同じ人種なんです。きっと。
実際に現代でこういうことをできる/しようと思う人と、古来の魔術師というのは同じ「性格特性・知的水準・俯瞰視点」を持っているんだと思います*2


関数(=式)も使うしね!


で、私は自分もそちら側だと思っているわけですが、俯瞰視点というのは異界視点とも言えます。
世界を異なる方角から見る力。*3


インターネットの
「公開した情報は本質的にアクセスを制限できず、アクセス方法について依願することはできるが強制することはできない。」
クラウド
「情報がどこにあるかは問題ではなく、誰がそれにアクセスできるかが問題だ。」


なんていうのは、まだ一般の常識からしたら考えられない視点だと思います。
つまりインターネットってまだ「異界」なんですよね。


だから図書館の検索サービスも
「人が図書館に来てこんにちはと挨拶するように使う」
というのが世間様の前提としてあって、
「人でないものが異界から使う」
というのは理解しがたい魔術なのではないですかね。*4


そして魔術師にも上下濃淡がありますし、異界視点がなくともプログラマはできますので、
「サービス運営者に断りなくクロールするプログラム作る人ってキモイ」
というプログラマさんがいてもおかしくないのかな、と納得しました。


ということで、
岡崎市立中央図書館事件というのは魔女裁判の様相もあるな、とか、
自分の社内での魔術師的立ち位置(いい意味でも悪い意味でも)に思いをはせたりとかしつつ、
魔術師とそうでない人の溝は、今の魔術が社会的に一般化したなら次の魔術が表れて、常に残るのだろうな、
──というのが結論です。



どっとはらい

*1:この段階で自分の思考パターンや言葉を拾ってみても「一般人」というカテゴライズがされていて、少なくともその分野に関しては「自分は標準ではない」という区別をしているのを自覚。

*2:もちろんその時代の平均と比較してという前提です

*3:性格特性と俯瞰視点というのは密接に関係していて、特に対人関係・世間様の束縛から離れることが異界視点を獲得する一方法であることが多いと思います。

*4:開発側の認識がそれでいいかという問題はまた別。起こった事象だけ世間様から見たときの話です。