「友達」の定義とは?シャーマンキング0-zero-『ニュー・シマネ・パラダイス』感想・考察
ジャンプ改VOL.5掲載。
麻倉葉のゼロストーリー。
ついに始まった新シリーズ『シャーマンキング0-zero-』。
週刊少年ジャンプでの連載打ち切りから、完全版での再連載・真完結、REMIXでの描き下ろしシリーズ、そして主要キャラクターたちの起源に迫るこのゼロシリーズのスタート。
度々このブログで言ってますが、久々に言わせていただきます。
『シャーマンキング』は「終わるたびによみがえるコンテンツ」!
そんなわけで、今回はそのゼロシリーズ第1廻、"葉が葉になる"前の物語、「ニュー・シマネ・パラダイス」の感想・考察です。
※当記事では「引用」に該当すると考えられる範囲で漫画の画像を使用していますが、問題等ありましたら、サイドメニューのアドレスまでご連絡ください。
- 時系列
本作品は1995年、出雲が舞台。
「恐山ル・ヴォワール」が1995年の年末から1996年の年始にかけての物語ですので、それよりも前ですね。
ラストで葉明が読んでいる新聞から「6月13日」と読み取れます。1995年の5〜6月頃、小学4年生の葉の物語です。
ちなみに、この新聞に写っているのは『機巧童子ULTIMO』に登場する「江古寺」のような…?
- 「シャーマンキング」への想い
バカみてえだろ?
だってオイラみてぇのが神サマなんかになったらさ
きっと人間なんかみんな滅ぼしちまうもん
冒頭から衝撃的な言葉を放つ葉。
別に本気で言ってる訳じゃねえよ
どうせオイラはシャーマンキングになんかなれるはずねえんだから
(中略)
それにみんなをキライなオイラはどの道ならねえほうがいいって話
完全版を読んだ読者の方なら、終盤の葉のセリフ「あんまり人がすきじゃねえ」を思い出したと思います。この時点で葉は「みんなをキライ」、つまり「人間がキライ」だと思っています。だから、シャーマンキングにはならないほうがいい、と。
それどころか、自分のシャーマン能力が特に優れたものではないと考え、あきらめのような気持ちさえ持っています。
1989年、葉明からシャーマンキングのことを聞かされた葉は「毎日好きな音楽聴いてのんびり楽に暮らす」という願いを持っており、「シャーマンキング」本編でも同様の願いを持っていました。何故、人間がキライになり、そして再びかつてと同じ願いを持つようになったのか。
その理由が、今回のゼロストーリーで明かされます。
- 本編との対比?葉と"誰かを待つ地縛霊"
新キャラクター「ねえさん」。出雲大社前駅ホームのベンチで50年間、戦争に行った婚約者を待ち続ける地縛霊。彼女が、このエピソードで葉に多大な影響を与えることになるのですが…。
どこかで、似たような話がありました。
本編での葉のパートナー、阿弥陀丸です。
首塚で600年間、約束をした丘で喪助を待ち続けた"待つ侍"。場所や年期は全く違いますが、葉の起源となるこの物語は、奇しくも「シャーマンキング」の起源となった物語と、よく似た形をとっているのです。
- 「鬼の子」麻倉葉
今回の読切を読んで一番意外だったのが、学校での葉に対する周囲の様子でした。
シャーマンファイト第一次予選、ファウスト戦の最中にアンナから明かされた『葉について』。「鬼の子」として町中から忌み嫌われていたことが語られました。
個人的には、この話を読んだとき、葉は学校で「無視」とか、「避けられる」だとか、そういった扱いをされていたのだと想像していました。ですので、実際には結構攻撃的な態度をとるクラスメイトがいたというのが、僕としては驚きだったのです。
まあ、描写されていないだけで、先ほど述べたような「無視」「避ける」といったことをしているクラスメイトもいるのだとは思いますけれど。
ところでドクガムシは、何だかんだで今後いいキャラになる可能性もある人物だったんじゃないのかな、と思ったり。葉が式神で攻撃した際、最初は戸惑っていましたが、すぐに怒ってやり返していました。ドクガムシ側からすれば、いきなり顔に傷が出来たのだから、すごく驚いたと思うんですよ。それに葉はあの「麻倉」の人間。気味悪がったり、恐ろしくなって関わろうとしなくなるのが普通だと思うのですが…あの対応。しかも式神を「手品」と割り切ってしまっています。
最終的に彼は葉の「友達」にはなり得なかったみたいですが、展開次第では後に分かり合える可能性もあったんじゃないかと思ってしまいます。
- 『好き』と『嫌い』 『流行』と『自分の気持ち』
本作品の主題ともいえるこれらの言葉。葉と「ねえさん」の二人の考え方を中心に、物語は動きます。
みんなして同じもん見て 同じの聴いて 同じように感動したつもりになって
こいつらは自分の理解を超えたもんをわざわざ必死で否定してくる
だから こいつらキライなんよ
私はみんながどういったって好きなものは好き
だってそれが私だもの 絶対 人のせいにするのはイヤ
キライだなんて言ったら勿体ないよ
みんながみんな流行にながされてばかりじゃ本当の気持ちになんか向き合えない
それどころか そのうち自分で考えることさえも止めてしまったらほんとにおしまい
だから流行の熱に駆られて 誰かの思い通りに戦争なんかする
葉は流行に流される人間を「下らねえ」と切り捨て、「自分の理解を超えるものを否定する」ことを理由に、「キライ」と言います。
「ねえさん」は葉に「キライだなんて言ったら勿体ない」と諭す一方、「流行」については葉の考えにも同意しています。
ここの「ねえさん」の語りは…重いなあ。「ねえさん」が若くして亡くなったのも、時代的に考えればやはり戦争絡みと考えられますし、婚約者を失ったのも戦争が原因。その戦争というのがまさに「大きな流れ」によって引き起こされ、沢山の人が巻き込まれ、自分の気持ちを表明することすら出来ない状況下です。
黒い表情の「ねえさん」を見て、この後悪霊化するんじゃないかと心配したのは僕だけでないと思う。ならなくてよかった…。
葉の「自分の理解を超えたものを否定してくるからキライ」というのが、僕はとてもよく理解できます。ネットしててもよく見かけると思うんですが、自分が読んで・見て・聴いて好きじゃない作品だったとき、「自分はこれは好きじゃない」と言えばいいのに、わざわざ「これを好きな人がいるなんて信じられない」だとかそういう言い方をする人がいます。僕個人の考え方としては、「作品」に文句を言うのは自由だと思います。人の好みは千差万別、同じものを皆が好きになるとは限らない。けれど、その「作品を好きな人」を否定する考えには納得できません。
もっともこの考え自体が、「違う価値観を持つ人を否定する」ことに該当するので、矛盾した考えではあるのですが。
それにしても、この葉の表情の黒さといったら。「割と黒いレアなあいつ」とはよく言ったものです。この頃の葉は嫌悪感から突発的に鬼(式神ですが)を生み出すという、ある意味アンナと似たような状態ですね。
ちなみに、アニメで葉を演じた佐藤ゆうこさんが、ブログでジャンプ改の感想、「流行」に関する考えを述べておられます。
購入!: 佐藤ゆうこ と 気ままなシュウ
必見です。
- 憑依合体
「シャーマンキング」と言えば憑依合体!霊と通じる様を見ると、「ああ、やっぱりこの漫画はシャーマンキングなんだなあ」と改めて実感します。解説が入っているのも懐かしいやら何やら。ちなみに、もう一つ「ああ、シャーマンキングだなあ!」と感じたのが竹山家の墓だったりする。
今回のゼロストーリーの内容を最初に聴いたとき、最初の数話であったような霊絡みの事件を解決するタイプの話を想像していたのですが、ある意味その想像は当たっていました。
結局自分の気持ちの問題だ
『恐山ル・ヴォワール』のプロローグを始めとして、作中で使われていた「大切なのは心だ」という言葉。それも元を辿ればこれだったのかもしれません。
葉が「ねえさん」と島根のジョーの教えにより"あの"葉になる、確かに起源の物語でした。
- 「友達」
ジョーの歌により和解(?)した葉とドクガムシ達ですが、それでも葉にとっては「友達」と呼べる存在にはならなかったのでしょうか?
マタムネに「お前さんには友達がいない」と言われた葉。
この能力のせいにはしたくねえけど おかげで学校には本気で話せる奴誰もいねえからな
話せば話したで特別な目で見られるし 話さなきゃ話さないでウソついてるみたいで嫌だし
それをなんとか出来んかと思って 最近はシャーマンキングになりたいと思うようになった
「友達」の定義は人によって異なると思いますが、少なくとも葉にとっての「友達」とは「本気で話せる人」ということになるのでしょうか?そして、そのためには自分の能力を理解してくれる人物でなければならない、と。
葉の初めての人間の友達となったまん太は、葉に興味を持ち、自ら葉のことを知ろうと尾行し(バレたけど)、墓地に会いに行きました(会えず、しかも竜にボコされたけど)。霊を見ることが出来る(=自分の能力を理解できる)人間で、しかも積極的に自分に接触を図ってきたからこそ、葉はまん太のことを「友達」だと言ったのかもしれませんね。
しかし今回のエピソードを読むと、葉が自分から「友達」という言葉を使ったのが結構凄いことのように思えます。実は勇気を振り絞って言ってたとか、まん太が最初拒絶したとき、傷ついてたりしてたのかなーと想像すると面白いですね。ちなみに、アニメ版では葉が憑依合体する直前、まん太に「オイラをよく見ててくれ」と告げるシーンがオリジナルで追加されていて、あれはなかなか良い改変だったと思います。アニメ版は後半のオリジナル展開がいろいろとアレでしたが、原作沿いのストーリー入る細かな追加シーンは、いい味を出していました。
- あらすじの変遷
実はこの『ニュー・シマネ・パラダイス』は、ジャンプ改VOL.4に掲載されたあらすじとは、ストーリーが大幅に変化しています。最初に公開されたものがこちら。
シャーマンキングを目指すため出身地の出雲から東京に向かう葉。
その道中で出会った子供の霊が抱える問題とは!?
まず、時系列からして違います。S.F.に参加するために上京している時なので、連載開始時と同じく葉は中学1年生。そして場所も「道中」なので、出雲〜東京間のどこかわかりません。そして、出会うのは「子供の霊」。「ねえさん」も16歳ですから、子供と言えなくはないですが…。
二つ目がこちら。ジャンプ改特設ページで公開されたもの。時系列が「シャーマンキングを目指す前」となり、場所も出雲となっています。ただ、やっぱり"子供の霊"。ちなみに、この頃は担当・いなきち氏のコメントが掲載されていました。
先日『0-zero-』制作のため、武井先生と出雲に行ってきました。出雲大社、出雲文化伝承館、出雲の街並みを入念に取材。
街は素晴らしく、食べ物は美味しく、人は素敵で優しい。全ては順調だった取材最終日に、何かに導かれるように「ある場所」へ。
そこは今回のキープレイスになる…恐ろしい場所だったんです!
その場所とは…ぜひ本編をご覧ください!
「ある場所」って、出雲大社前駅ホームのことでしょうか?しかし…恐ろしい場所…?
その後、サイト更新時に現在のあらすじになりました。"子供の霊"が修正されています。
まあ、ジャンプは昔から、次号の内容と食い違った予告文とかお馴染みでしたしね。
- ふみきりにいる姉さん
恐らく、完全版を初版で揃えた方は、今回のゼロストーリーを読んで7・8巻の「股旅日和」を思い出したのではないでしょうか?葉と"踏切にいる姉さん"の詩。「ねえさん」をこの「姉さん」だと思った人も多いのではないかと。
ただ、詩から情報を読み取ると、この時の葉は小学2年生、時間軸からして違います。それに「踏切」と「駅のホーム」ではやっぱり違いますし、写真を見た感じ、その踏切は既に廃線になってる様子。別人だと思われます。こちらの姉さんは、その後どうなったんだろう。成仏したのかな。
- 女の子について
今回のゼロストーリー、ほとんど出番がないにもかかわらず、存在感がやたらある人物がいました。
クラスメイトと思しき女の子です。駅でのコンサート後、どうも葉に惚れてるっぽい描写がされている彼女。ちなみに、出番はわずか4コマ。
「流行」について描写している学校の一コマにチラリと登場していましたが、この時から葉を気にしている様子でした。この後、葉と会話する機会とかあったのかなあ…?
・・・なかったんだろうなあ・・・・・・
- まとめ
思うままに書いてたら、ずいぶんとまとまりのない感想文になってしまいました。兎にも角にも、また「シャーマンキング」という作品に触れることが出来て幸せです。
次号の担当キャラが誰か予想しつつ、楽しみに待っています。
0-zero-の掲載回数を考えると「5人の戦士」が調度いいですし、蓮あたりが妥当ですかね?
個人的には、木刀の竜の過去話とか見てみたいです。何気に竜さんははっきりとした過去が不明なんですよね。家族構成とか、少年時代とか。気になります。
ただ、彼のゼロストーリーは確実に「シャーマン」関係なくなりそうなんだよな…。
関連リンク:島根県:島根県観光振興課トップページ(トップ / 観光振興課)
『ニュー・シマネ・パラダイス』取材協力先の「島根県商工労働部観光振興課」HP
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ナゾ「『友達』についていろいろ考察してたけどさ」
レン「うん」
ナゾ「葉がまん太を『友達』って言ったのってさ」
ナゾ「結局のところ『ちっちゃかったから』ってのが一番の要因じゃね?」
レン「おい」
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