呉智英夫子の「鮭秀実」批判

佐藤幹夫が主宰する「編集工房樹が陣営」発行の雑誌『樹が陣営』27号〔2004年6月〕*1の特集は「2004・「知」はそしてトリビアになった!?」。その中から「呉智英氏インタビュー 二〇〇四・知の状況と知識人の役割について」〔引用原文ママ

 もうひとつは、大学のなかで食って行けるということですね。たとえば鮭秀実という評論家が、いま、若い人たちのあいだで小さなカリスマのようになっている。鮭はかつてジャーナリズム専門学校で教えていたが、ジャナ専などというところは人間のクズを作るところでしかない。そこの経営が危うくなったところで、近畿大学に移り、文学部芸術学科の教授となった。しかし近畿大学芸術学部に、親はどんな気持で子どもを入学させるのか。そんなところに入ったって芸術家になれるはずがないではないか。この点ではまったくジャナ専と同じです。
 専任の教授だから年収は一千万以上あるだろうが、その鮭が何を言っているかと言えば、「一九六八年世界革命」(笑)。一九六八年にどこで世界革命があったのか。およそ自分の頭のなかの妄想でしかないことを言っているに過ぎない。アメリカの黒人その他の少数民族やホモやレズビアンとか、日本の在日朝鮮人や在日支那人による叛乱が起きた、と彼は言う。叛乱とか異議申し立てなどは、いつの時代でも、どんなかたちでも起きているわけだし、しかも、それがいいものであったという保証はどこにもない。それなのに、三十数年後の今になって、一九六八年世界革命なんてことを口走り年収一千万を得ている人間というのは、いったい何なのだろうと思う。いかに知識人の言説が多くの人に届かないか。こんなバカなことを言っているから、実学の人間にバカにされるのです。しかし鮭のこうした言説が鮭のこうした言説が、社会に対して意見を言いたいけれども、どう言ってよいか分からないという三十代、四十代の一部の人には、こういうタームがあるのかとタームを与えていることになる。そして小さなカリスマ扱いされるわけだ。これこそまさに知の溶解状況です。

「すがちん」〔©角田光代〕を鮭よばわりですよ!!ネットだけの隠語だと思ってたんだけど*2、これ誤植じゃなくてわざとだよね!
真っ当さと(意図的な曲解も含む)嫌味が混じった呉智英らしい内容だけど、昔の鋭さがなくなって退屈ばかりが目に付くんですが。インタビュアー・構成の問題もあるだろうけど、このすが秀実に対する批判ってそのまま呉智英の今のポジションに当てはまる気がする。だいたい近大がすがに1000万も出してるとは思えないし*3、教授じゃなくても呉も(一流でない)大学講師やってるし、伊藤整と「自虐の詩」を並べて愛の問題を語ったって受講生やその親には68年革命と何の違いがあるんだろうって思うだろうし、すがより呉の方が本もずっと売れてて「カリスマ」だろうし、なんてったって夫子はメ〜テレ放送番組審議会委員長ですからね。実態がたいしたことなくても微妙な肩書きでは近畿大学教授とどっちもどっちな気がするし。

ってベタに呉批判をしてもこの場合はたぶん意味はなくて…。非一流大学の「バカ」から巻き上げた金で食いながら68年革命という「たわ言」をぶち上げてること対してはすが秀実もおそらく自覚的で、すが秀実がわかっているってことを呉智英もおそらく気づいている。インタビュアーであろう佐藤幹夫は、、、わかっていないとしたら。。こんなの構成の時にカットすべき(逆にいえば非公式の場やオフレコでは充分許容すべき)放言だと思うけど。
従来左翼のカウンターとしての封建主義者呉智英と1945年革命のカウンターとしての1968年革命論者すが秀実なんて同じようなポジションだと私は思いますけど。

*1:ISBN:4902357267

*2:id:kitou:20030830#p4

*3:chikiさん〔id:seijotcp〕とかに振ってみる