遠い日の

父・こんなこと (新潮文庫)

父・こんなこと (新潮文庫)

 幸田文露伴を看取る様子を綴った「父」。「こんなこと」では父との様々な思い出が語られる。掃除を父露伴に仕込まれたこと、一緒にかるた取りをしたこと、正月の挨拶が緊張したことなど。
ノラや (中公文庫)

ノラや (中公文庫)

 愛猫ノラとの楽しい思い出から、ノラがある日出ていって帰らなくなってからの苦悩の日々、ノラが遣わしたかのように迷い込んできた猫、クル。クルとの生活、そして死。その他猫にまつわる随想が綴られている。
 幸田文は近所のブックオフで入手。内田百けんの「ノラや」は四天王寺で開催していた古本市で入手。こちらは探していた本なのでうれしかった。
 最近、うちにある筑摩書房の「現代日本文学大系」をパラパラとめくり、面白そうなものをちょくちょく読んでいる。あまり新しい小説を手に取る気がしない。古い物ばかりに惹きつけられる。そして幸田文内田百けんなどの描く、何ということもない日常風景に胸の奥が締めつけられるような懐かしさを感じたりする。でもこれは少しおかしなことで、彼らの時代は遠い過去の話で追憶と呼ぶにはあまりに無経験に過ぎる気がする。それからまた、文章の上手いこと。あれだけ情景描写が書き込んであるのに、説明的ではなくむしろ心が震えるような情感が伝わってくる。ああいう文章を新しい作家に求め得ない。そのことに悲しみさえ感じる。どうすればいいのだろうと、何の責任もないのにあてもなく思い悩んだりする。