若草物語

若草物語 (新潮文庫)

若草物語 (新潮文庫)

少女小説に分類されているためか、読む機会がありませんでしたが、縁あって古い文庫を手にしたので読んでみました。本編に入る前にジョン・バニヤンの『天路歴程』が引用されていて、内容も読み進めていると『天路歴程』の引用がそここにあり、物語の中で語られている「お遍路ごっこ」が基本的な枠組みとして機能しているとわかりました。つまりこの登場人物達は天国に向かって自分を磨きながら進んでいく巡礼者なのです。巻末の解説を読むとそのことはもっと理解できます。四姉妹の次女ジョーは、作者の分身であり、母親や他の姉妹たちもほぼその日常をそのまま写したのが本書だということですが、父親だけは本書に出てくるような人物ではなかったようです。熱心なキリスト教徒で、家族の生活を顧みずに、財産を持たない共同生活を行い、貧しい人に施し、それでいながら自らは生活能力がまったくないというかなり困った人だったようです。実人生では作家として収入を得られるようになった作者が父親を最後まで面倒見つつ、自身は生涯独身でした。この父親は物語に出しにくかったので、南北戦争に出征していることにして、物語は女性たちを中心とした世界を描いていきます。ただ、この母親が貧しい人への施しなどを積極的に行う信心深い人物として描かれており、それが出征している父親の影響であると言及されています。
 この本を読んでいると、星の王子様が言っている「ほんとうにたいせつなことは目に見えない」という言葉が自然と頭に浮かんできます。そしてアメリカにこんな生活があったことがとても信じられないような気持ちになります。あるいはまだアメリカの田舎ではこんな価値観が生きているのだろうか。私が知らないだけで。