きっかけはYOU!/吉川友が吉川友であるということ
なんか、何が演技で何が本当の自分なのかわかんなくなってきちゃった……
映画予告編において、これまでyoutubeにアップロードされてきた「きっかチャンネル」が吉川友のデビューまでを追ったドキュメンタリーではなく、この映画「きっかけはYOU!」内で撮影された演技であったという仕掛けが発表された。
単純化すると、吉川友(リアル)←きっかチャンネル(ドキュメンタリー)←きっかけはYOU!(映画)←視聴者という複数の階層によって「吉川友」という存在が描かれているということになる。もはやドキュメンタリーという媒体が必ずしも被写体の裏側=真実を描く客観的なメディアではないことは自明であり、アイドルを<現実/虚構><素/演技><人間/アイドル>といった二項対立で捉えることの不可能性が痛いほど意識されてこの作品が作られていることが伝わってくる。
この映画の繊細さは物語の構造に向けられた部分だけに留まらない。ドキュメンタリーをドラマ仕立てにして「裏側のリアル」に一石を投じる姿勢はAKB48の手法を意識していることは火を見るより明らかであるし、名前こそ出さないもののももいろクローバーを強烈にイメージさせるシーンも存在する。スマイレージや真野恵里菜といった元ハロプロエッグ組の名前が登場するシーンでは我々としてはもはや苦笑いできるかすら怪しい。その上で、同じユニバーサルミュージックからデビューするぱすぽ☆を引き合いにしてソロアイドル対グループアイドルという対立構造を露悪的に示すことで、いわゆる「アイドル戦国時代」において見えない敵を作り出し過剰なまでに「戦い」を強いる現状へのカウンターを打ち込んでいるのは非常に上手いケンカの売り方であろう。
吉川友は「正統派ソロアイドル」である。正統派という謳い文句は、言い換えれば「個性が無い」ということにもなる。「きっかチャンネル」のレコーディング風景でもハッキリとプロデューサーから突きつけられるように、きっかは歌・ルックス・演技とどれをとっても平均点以上だが、「吉川友らしさ」を問われると答えに詰まる。終わり無き差異化闘争と既存「アイドル」概念からの逸脱合戦に明け暮れるアイドル界では、「正統派」が何も無い証拠であり甘えであると言われないために、きっかけはYOU!のように3重4重、いや、それ以上の仕込みが欠かせない。それを周到に行なった上で初めて打てるカウンターパンチが「正統派」という称号なのだ。
しかし、その一発を打ち込むために用意した幾十もの仕込みは、特に物語構造の点で破綻している。きっかチャンネルの層、きっかけはYOU!の層それぞれにおいて描かれるリアル/フェイクの切り替えが複雑なため、様々なシーンでフェイクの水準に対する違和感が噴出する。ネタバレをしない範囲で具体的に言うと、「このシーンはきっかの<リアル>を描いているはずだけど、俺らが知ってるきっかはこういう言動はしないよな」という感覚である。
しかし、随所で湧き上がる様々な違和感も、吉川友をどう捉えているか、例えばモーニング娘。7期オーディションの時から見ているのかエッグ時代の新人公演に欠かさず通ったのかMilkyWayの印象が強いのかといった個々の「吉川友像」によって異なるのかもしれない。
きっかチャンネルはyoutubeで無料公開されたものの、毎回かつてのASAYANを彷彿とさせる非常に凝った演出がなされたドキュメンタリーであった。特に第4回で流した涙、そして曲のイメージを自ら言葉にした後のOKテイクの素晴らしい歌唱に至る「成長」は、それがきっかけはYOU!において完全なる「フェイク」であったと宣言されても、それでも「リアル」であると信じたいものであった。どこまで意図的に製作されているかは定かではないが、リアル/フェイクの幾十もの上書き・反転によって、物語は正しく階層化されることなく、全てがフェイクであるというよりも、全てが「リアル」になりうるものとして描かれていたように思えた。
そして混沌とした物語はラストにおいて吉川友がスクリーンを飛び出し、我々観客の前に実際に登場することで、フェイクとはなんなのか、リアルとはなんなのかという疑問を吹き飛ばし、ただそこに「吉川友」という現象・存在が現前する。*1
吉川友は吉川友である。様々なギミックを周到に用意しつつも、一番単純で一番大事なことを力強く肯定する映画であった。
さて、この映画では吉川友というがデビューして「売れる」ために、事務所のプロモーション力とアイドル本人の力が描かれるのだが、アイドル現象を語る上では欠かせないファンの力という3番目の要素は、きっかけはYOU!内のとある登場人物によって担われているものの、先の2つに比べるとかなり薄く捉えられている。AKBら多くの現代アイドルがファンを巻き込みファンの手でアイドル現象を成立させること重視しているのに比べると、よくも悪くも「ハロプロらしさ」が出ているように感じられた。しかし、「ファン主導」といえども実際にアイドル現象そのもののシステムを作るのは事務所らプロデュース側であり、ファンが真に出来ることというのは悪く言えばカネを払うことであり、希望を込めて言えばアイドルを応援することである。
ハッキリ言って、きっかけはYOU!の一連のプロモーションは失敗している。きっかけはYOU!そのものの出来は、もちろん細かい批判は可能だが、十分素晴らしいと断言できる。きっかのスクリーン映えは飛び抜けており、物語構造云々は抜きにして単純にスクリーンに映るきっかを見ているだけでため息が出る。ただ、肝心の劇場に足を運ばせるまでの道のりが遠すぎた*2。
上映二日目にして客席は半分以上が空席であった。ラストシーンにおいてスクリーンから飛び出してきたきっかを迎えるのにこれでは寂しすぎる。吉川友の物語はまだ始まったばかりである。ファンの手で吉川友の未来を支えていこう。この映画を見ればきっと心からそう願うことが出来るだろう。
きっかけはYOU!、吉川友のきっかけはあなた次第なのだ。さぁ劇場に足を運ぼう!
http://www.universal-music.co.jp/universalj/artist/kikkawa_you/
■東京公演:シネマート新宿
プレミアムチケット(きっかサイリウム+生写真(ランダム4種の内1種))付き
映画鑑賞券 ¥3,700(税込)
5月 1日(日) 13:30〜
5月 2日(月) 19:00〜
5月 3日(火・祝)19:00〜
5月 4日(水・祝)13:30〜
5月 5日(木・祝)13:30〜
5月 6日(金) 19:00〜
5月 7日(土) 13:30〜
5月 8日(日) 13:30〜■名古屋公演:109シネマズ名古屋
映画鑑賞券 ¥3,000(税込)
5月14日(土) 12:00〜
5月15日(日) 12:00〜■大阪公演:シネプレックス枚方
映画鑑賞券 ¥3,000(税込)
5月21日(土) 12:30〜
5月22日(日) 12:30〜
- アーティスト: 吉川友,大華奈央香,イワツボコーダイ,michitomo
- 出版社/メーカー: ユニバーサルJ
- 発売日: 2011/05/11
- メディア: CD
- クリック: 293回
- この商品を含むブログ (42件) を見る