佐藤勝彦『相対性理論』

佐藤勝彦相対性理論

  佐藤氏は、宇宙物理学者で、宇宙創成のビッグバンが起こる状態を「インフレーション宇宙論」(講談社ブルーバックスに同名の著書がある)という仮説で解明した人である。と同時にアインシュタイン相対性理論を、市民層にわかりやすく数式をあまり使わずに説明する科学啓蒙書を、多く出している。
    アインシュタイン著『相対性理論』(内山龍雄訳・岩波文庫)と一緒に読むと、より理解が深まる。アインシュダインの原文は、ちょっと見ると、数式が多く文系には敬遠したくなるが、Ⅰ部「運動学の部」は、中学程度の代数知識があれば読みやすい。思考のプロセスが良くわかり、数式が次第に詩文のように美しく見えてくる。Ⅱ部「電気力学の部」の数式は難しいが、内山氏の解説でわかる。科学論文の傑作というのに共感する。
  「相対」とは何か。「他との関係性の中で成立するもの」と佐藤氏はいう。運動という物質の動きには絶対的な視点や捉え方はなく、物理学では自分が静止しているという仮説から動きを捉える。では光が一定の光速度で動くという矛盾をどうとくのか。アインシュタインは光を波動でなく、粒子として見た。時間も空間も絶対でなく、相対である。
時間と空間が縮む。動いているものは、時間が遅れる。動いているものは、長さが縮む。空間も重力で歪む。ものが動くと質量が大きくなり、エネルギーが重さに化ける。それが有名なE=mc2の公式である。核爆弾を作り出す公式である。
このように佐藤氏は、初歩的なところから相対性理論について、イラストを使い説明していくから良くわかる。時間と空間というカテゴリーが、20世紀には大きく変革されたといえる。
さらに佐藤氏は「一般相対性理論」の説明を行い、加速度運動と重力は同じもので、重力による時間の遅れをいい、宇宙旅行による「ウラシマ効果」を述べている。タイムマシの可能性や、ブラックホールまで論じていて面白い。
佐藤氏の本は、相対性理論が切り開いた現代宇宙論まで敷衍されていて、ビックバンモデル、宇宙の膨張・収縮モデル、インフレーション理論、「無」からの宇宙創成論まで的確に説明されているのが良い。相対性理論量子論とともに、物理学がけではなく、現代思想に大きな影響を与え続けていると思う。(NHK出版)