秋田県は6日、2008年度の市町村への権限移譲率を公表し、県内平均は10月1日に37.7%となり、07年度と比べ7.3ポイント上昇するとの見通しを明らかにした。市町村別では90%に達する自治体がある一方、4%にとどまっている自治体もあり、権限移譲の地域差はさらに広がった。移譲率が上位と下位の自治体は表の通り。県は地方分権の一環として、05年度から権限移譲を進めている。移譲対象は民生・児童委員の指揮監督権、未熟児の保護者に対する訪問指導権など最大104項目に及ぶ。羽後町は08年度、新たに14項目を受け入れる方針で、移譲率は75%から15ポイント上昇する。40%だった北秋田市は、新たに30項目の受け入れを決め、一気に移譲率を33ポイントアップさせる。一方、井川町は05年度に3項目を受け入れて以降、権限移譲に応じていないため、移譲率は08年度も4%のまま。秋田市(53%)、由利本荘市(24%)も08年度は受け入れる予定がない。県は権限移譲が進まない要因として、「未経験の事務権限のため、市町村に不安感がある」(市町村課)と説明するが、市町村からは「使うことが少ない権限を移譲されても、負担が重くなるだけ」との声も出ている。県は08年度、市町村が希望する権限のみ移譲する従来の「手挙げ」方式を見直し、県が市町村の人口や財政規模などを踏まえ、受け入れ可能と判断した権限を提案する方式へと改め、権限移譲をさらに進めていく。
<市町村別権限移譲率>
【上 位】   【下 位】
羽後町 90% 井川町  4%
北秋田市73% 大潟村 10%
大仙市 63% 八郎潟町14%
横手市 58% 八峰町 14%
大館市 58% 東成瀬村14%

同記事では、秋田県で「条例による事務処理特例」制度を通じた事務権限移譲の現状として「まだら」状態にあること、そしてその解消方式として「提案型」に変更予定であることを紹介。
都道府県から市町村への権限移譲に格差が生じる要因の「説明方法」としては、大別すれば、移譲側の論理と受容側の論理の二つからの整理ができる。
まずは、移譲側の論理である。例えば、都道府県の政治的文脈・社会経済的文脈要因がある。具体的には、各都道府県の社会経済的要素、各都道府県知事の経歴・政治的指向・分権に対する指向の人的要素 、県土整備方針や保健・医療・環境等計画の都道府県の各政策的要素 により移譲状況が異なるというものである。また、都道府県の財政規律化要因もあり、「集中改革プラン」等による都道府県行財政の減量化の進展度により、都道府県から市町村への移譲度合いが異なることもある。更には、このような移譲側の要因に着目する説明要因には、国による統制・促進要因を強調する説もありうる。つまりは、特に、事業官庁(政策コミュニティ)による抑制*1要因も考えられる 。
もう一つは、受容側の論理である。その一つには、市町村合併要因がある。これは、市町村合併をした自治体が法定移譲の対象都市増加することや、市町村合併効果を市町村長等が顕示目的(credit-claiming)*2 として移譲を進めようとすることである。実際に、ヒアリングを行った各県においても移譲に積極的な市町村は、合併を行っている市町村であるケースもまま見ることができる(もちろん、市町村合併が絶対の要因ではない)。また、上記の移譲側の要因と同様に、市町村の政治的文脈・社会経済的文脈要因もあろう。これは、各市町村長の経歴・政治的指向・分権に対する指向といった、人的要素、各市町村の社会経済的要素からの説明、市町村の財政の安定化による移譲項目の多寡といった、市町村の財政規律化要因も考えられる。ただ、財政規律が高い市町村が事務権限移譲に積極的であるという実態は観察することはできていない。
ただ、実際に観察をしていくと、説明方法はともかく「発生要因」は、事が深刻である。なによりも、まずは両者間の情報の非対称性が生じていたりする。つまり、費用負担や人員、処理方法等の基礎的な情報ついて、十分な情報共有が欠けることもある。そのため、制度設計論的には、情報格差の是正がまずは必要と考えられる。秋田県の取り組みも「押し付け」ではなく、情報の非対称性を是正することにこそ、その眼目があるのではないかと思う。
実は、「条例による事務処理特例」制度は、ここ数年間、観察対象として中心に置いているため、語り始めると止めどなくなり、書き始めると取り留めなくなる。昨年も研究会でお話する機会があっても、報告の核心内容に至る前段階で、報告時間を大幅に超過してしまい、皆さんにご迷惑をお掛けし、大いに反省した。昨年後半には、地方分権改革推進委員会が「突然」ともいえる程に『中間的取りまとめ』で取り上げられたこともあり、俄かに関心がもたれた制度となっている。長年追いかけてきた、過去に曰く付きで毀誉褒貶のあるB級アイドルが、ひと夜にして再度スポットライトを浴びている姿をみると、一抹の寂しさとともに不安もある。例えば、地方分権改革推進委員会の議論の組み立て方は、同制度を通じて都道府県が既に移譲している事務権限を「実績」として捉えて、共通的に移譲されている事務については、法定移譲という「全国展開」に結びつけるというものである。これは論理としては分かるが、実際に他の市町村で移譲されていることを根拠として、実績がない市町村にも移譲し、それらの市町村で受容(処理が可能であるか)されるかは、やや疑問がなくはない。
いずれにせよ、同制度は観察していると、兎に角、面白い。パラパラ(バタバタ?)に書いているものもまとめてみたい。

*1:西尾勝地方分権改革』(東京大学出版会、2007年)55頁

地方分権改革 (行政学叢書)

地方分権改革 (行政学叢書)

*2:北村亘「中央地方関係の理論的分析へのいざない」『レヴァイアサン』第40巻、2007年、124頁