イアン・ブレマーかく語りき

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【第63回】 2011年6月20日
自由市場資本主義は本当に死んだのか――世界のエリートが注目する気鋭の政治学者イアン・ブレマーに聞く
興隆する国家資本主義との相克の行方
http://diamond.jp/articles/-/12781

(略)
――国家資本主義は学者によって定義が異なるが、ひとつの定義に収斂できるのか。
 ひとつの方法で定義できる。それができなければ、モデルに問題があるということだ。私は、国家資本主義を「国家が経済のPrincipal Actor(主役)として政治的目的を果たすために市場を利用する究極的な経済システム」であると定義している。
(略)
――国家資本主義は、かつての共産主義がそうであったように、本質的には自由市場資本主義と共存できないシステムなのか。
 こう答えよう。国家資本主義は、自由市場資本主義と競合するシステムだ。
(略)
――では、自由市場資本主義に対して、国家資本主義が持つ競争上の強みとは何か。
 特徴として言えることは有権者についてそれほど悩む必要はないということだ。
(略)
――逆に弱みは何か。
 最終的に効率が悪くなっていくことだ。しかし、率直なところ、そこに至るまでは長い猶予があるだろう。
(略)
 日本だけの話ではなく、我々は今、成長以外にもフォーカスを広げていかなければならない時期にあるのだ。
――しかし、その大事な時期に、日本は権力闘争に明け暮れている……。
 そうだろうが、あなたはニューヨーク出身の人にその質問をしていることを自覚すべきだ。アメリカでは、国に関わる問題となると、いろいろなところで策動する人たちが実に多い。そんな私から見れば、日本の政治ゲームなどは驚きには値しない。50年間、事実上の一党支配が続いてきた日本で、今まで支配する側に立ったことがない党が与党になったわけで、混乱しても当然だ。官僚との協力の方法も、もう一度ゼロから作っていくしかないだろう。
――日本が国家戦略面で特に急ぎ構築すべきものは何か。
 日本は極めて強固な産業政策を持っているが、外交政策は非常に軟弱だ。ちなみに、アメリカはその逆で、残念な表現を使えば、両国は陰と陽だ。
 質問に戻れば、世界的に政治と経済の動きが一緒になろうとしている中、日本に今必要なのは外交政策と産業政策を効率的に統合する能力である。今のままでは、特に動きの速いアジアにおいて立ち遅れて行くことになるだろう。しかしその際、日本が国家資本主義にならなければならない理由はない。その方向に向かうことは、むしろ日本経済のためにならないと心得ておくべきだ。