オオカミシンポジウム

日独オオカミシンポジウム、という催しに通訳として参加しました。久しぶりの通訳業務でしたが、興味のある内容だったし、中央ドイツのきれいな標準ドイツ語だったので、ストレスなくできました。通訳業務はそろそろ引退しようかと思っていたのですが、百姓には百の仕事があると思えば、その中の1つでもいいのかな。視察の通訳は拘束時間が長くてキツいけど、シンポジウムくらいだったらまだいけるかもという気になりました。


そのオオカミシンポジウムの報告をします。報告なので長文ですが、興味深い内容だったので、ぜひご一読ください。

日本では、天敵がいないシカが全国的に激増していて(人口は減っているのに)、巨額の予算がシカやイノシシの被害対策に費やされていることをご存知ですか?もちろん、ほとんどが税金です。植林した木や田畑の農産物を荒らすだけでなく、民家や人的被害も起きており、年々深刻化しています。その解決策の1つとして、1度絶滅したオオカミの再導入案が浮上しているわけなのですが、ドイツは全く違う視点でオオカミを保護しているとのことでした(ちなみにアメリカのイエローストーン国立公園は、シカやエルクの被害を抑える視点でオオカミを再導入して成功している)。

ドイツでは1990年に連邦自然保護法、1992年にEUガイドラインができ、「かつて生息していた種を含め、全ての動物や植物には生存する権利がある」という条文が憲法のような位置づけとして定められました。これに基づき、絶滅の危機に面していたオオカミも保護の対象となり、EU全体で保護に取り組んだ結果、ロシア東部やイタリアに残っていたオオカミが徐々に分布を広げ、2000年にフランスとドイツで生息を確認。2014年にはドイツ国内で35の群が確認されているそうです(1つの群に約8頭)。


アメリカのような広大な土地にある国立公園内での取り組みと違い、ドイツは全土に人が住んでいる国で、農山村の人口密度はむしろ日本よりも高い上に、家畜を放牧している国でもあります。そこでの「オオカミ保護」による被害はないのか?という疑問に、大きなヒントを頂きました。

オオカミは野生動物であろうが家畜であろうが、区別がつきません。でも十分な数の野生動物(=エサ)がいれば、わざわざ電気牧柵で囲われた家畜を襲ったりはしません。人口20万人の都市および近郊で10もの群が確認されているザクセン州では、1万5千頭もの羊が飼育されていますが、州が支出するオオカミ対策費は年間たったの約350万。内訳は、夜のうちに家畜を囲い入れる電気牧柵の設置費と、日中、羊たちを守る護衛犬の導入に必要な費用で300万円弱。家畜がオオカミにやられた場合の補償(100%)で50万。日本の農山村がシカの対策にいくらくらい予算をつかっているのかは場所によって大きく異なるのですが、全国では億単位の税金が使われていることを考えると、オオカミ対策費の方がずっと安そうです。


ただ、このシンポジウムを聞いて思ったことは、これは一地方や地域で決められることではなく、国の方針として、この国の「生態系」をどうとらえるかに関わるな、ということです。若い雄のオオカミは1500キロもの移動を数か月でするそうなので、たとえば、人間が住めなくなった福島第一原発付近で、「正常な」生態系を復元するためにオオカミを導入したとしても、ここ九州にまで移動してくる可能性があるということだからです。でも、絶滅させたのは人間。この国の生態系には、もともとオオカミの存在があったのです。だから人間の手で再導入して、この国の本来の生態系バランスを取り戻すというのは、おおいにアリだと思います。たとえ危険を伴うとしても、交通事故の方がよっぽど頻度が高いし、こんなに地震や火山が多い国で原発を再稼働させようという方がよっぽど直接的で広範な危険を伴うと考えれば、もともといたオオカミを呼び戻して起き得る被害など知れている、というのが私の考えです。もちろん、あくまで私見です。

長い報告を読んで頂きありがとうございました。「ドイツには熊がいなくて、ドイツ人は熊をとても恐れている。日本には熊はいるけどオオカミはいなくて、日本人はオオカミを恐れている。これはつまり、我々人間側の”知らないものは怖い”という心理でしかなく、人間も生態系の一部だということを忘れつつある私たちのエゴだ」という最後のメッセージがずしーんと響きました。オオカミ協会九州支部長のみほちゃんと通訳をした私を「女神たち」と呼んでひざまずくあたり、イタリア人ほどではなくても欧州の男性、って感じですが、人間も生態系の一部だ、ということを再確認させてくれた、マルコス氏に感謝。勉強になりました。



先日は南阿蘇村全域に避難勧告が出るほどの大雨が降りましたが、幸い被害もなく、翌日はウソのような快晴でした。大雨の予報を聞いて、前日のうちに作っておいたダム湖で泥んこになって遊ぶ子供たち。


ネットに引っかかって弱っていたカモを救出して介抱していたら、カモが気になって仕方がないネコ。


大雨の日は作業を諦めてゆっくり休んだので疲れも取れたし、こんな日常を過ごしているありがたさを噛み締めながら、また農作業に励んでいます。稲は順調に育っています!