牙城崩れず

政治や社会問題に高い意識を持っている映画監督というだけでは、一国の大統領とやり合うには荷が重すぎるのかもしれません。

“あの”オリバー・ストーンが、ロシア連邦大統領のプーチンに挑む。そのドキュメンタリーの根幹を成す、複数回にわたる、都合二十時間にも及ぶインタビューを書籍化したのが、『オリバー・ストーン オン プーチン』です。

一介の映画監督に言質を取られるようなプーチンではなく、両者の議論、丁々発止のやり取りを期待して手に取った向きには不満な内容かと思われます。

そこまでは期待しておらず、欧米の報道によって世界の出来事に触れる立場を離れ、プーチンがどのような理論武装をしているのか、彼が何を正義と見立てて諸外国と向き合っているのかを知りたいと思って手に取ったので、わたしとしては不満はありませんでした。

彼の言うことを額面どおりに受け取るなら、高潔で素晴らしい政治指導者でしょう。しかし、過去も現在も、彼の名前とともにきな臭いニュースが多く報じられているのもまた事実です。

そこを突っ込んで論争を仕掛けたら、この企画は途中で潰れていたでしょう。オリバー・ストーンとしてもぎりぎりのところだったと思います。

プーチンが語っていないことも含めて語っていることは、本音と建て前という表現で説明出来るものではありません。政治家が言ったことは正しくなければいけないのです。どのような意味であれ。

「今日の都合で魂を売った者の決定など、明日にも覆るものさ」とは、『機動戦士Ζガンダム』での、シャア・アズナブルのセリフです。

その合従連衡のパワーゲームで生き延び、国益を確保するというのは並大抵のことではないという表現では追いつかないくらい、並大抵ではありません。

オリバー・ストーン オン プーチン

オリバー・ストーン オン プーチン