児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

【スウェーデン】 児童ポルノ犯罪に関する諸規定の改正

 日本法とは保護法益が違うようですが、日本もそっちに向くんでしょうな。

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/pdf/02460105.pdf
スウェーデン児童ポルノ犯罪に関する諸規定の改正
海外立法情報課・井樋 三枝子

児童ポルノへのアクセスの犯罪化、その他の児童ポルノ犯罪関係規定改正
2010年に政府が提出した児童ポルノ犯罪関係規定の改正案は、児童ポルノへの関与にまつわる様々な形態の行為が、法律の抜け穴の存在により処罰を免れるような事態をなくすという目的に立脚したものであり、その内容は、(1)児童ポルノ処罰規定の適用範囲拡大、(2)犯罪化される新たな行為形態、(3)「重大」とされる児童ポルノ犯罪の明確化、(4)児童ポルノ作成・所持が処罰されない場合の明確化及び(5)児童ポルノ犯罪の公訴時効の延長と遡及効の部分的容認等であった。また、(1)の児童ポルノ範囲の拡大に関連した基本法の改正も内容とされた。本稿では、(1)及び(2)について紹介する。

(1) 児童ポルノ処罰規定の適用範囲拡大(刑法典第16章第10a条改正)
ポルノとは、媒体、表現方法を問わず、科学的、芸術的価値を有さずあからさまで挑発的な方法により性的題材を描写している画像であり、そのような画像の中に子どもが描かれている場合は、子ども自身が明らかな性的意味合いのある行為に従事していなくても、刑法典上で処罰対象となる「児童ポルノ」であるとされる。
今回の改正では、犯罪となる「児童ポルノ」において描かれる「子ども」の定義改正が行われた。改正前の子どもの定義は「思春期の成長が未完了であるか、画像及びそれに関する状況から18歳未満であることが明らかである者」であった。しかし、この条文を解釈すると、思春期の成長が完了した(成熟した身体の)未成年が、ポルノ画像において描かれた場合、たとえ実年齢が認知されていてもいなくても、画像そのものや関連状況から未成年と判明しない場合には、処罰されない可能性がある。このような条文となったのは、成長の完了した子どものポルノ画像を広く規制することで、合法である成年のポルノまで処罰対象とされる恐れも生じるためである。
そこで「思春期の成長が未完了であるか、18歳未満の者。ただし、思春期の成長が完了している場合、画像及びそれに関する状況から18歳未満であることが明らかであると判断されれば足りる」と修正された。この条文の前半で、思春期の発達が未完了な者を描写したポルノであれば必ず処罰対象となることに加え、被写体が成熟した身体であるかどうかにかかわらず、子どもの年齢を把握していた場合は処罰対象となり、後半ではポルノ画像の被写体の年齢を知らない時に、その被写体が「とても子どもにはみえない」場合は、必ずしも処罰対象に含めないことが規定されている。
思春期の発達が未完了であれば処罰対象となることについては、立法趣旨から、児童ポルノ犯罪の保護法益は、描かれた実際の子どもだけでなく、子ども一般の尊厳でもあると解釈されたことから生じている。つまり、児童ポルノ犯罪において描写されるのが実在する子どもである必要や、特定の子どもの実体的な侵害がある必要もない。
(2) 新たに犯罪化される行為形態(刑法典第16章第10a条改正)
所持の一形態として「利用可能とされた児童ポルノ画像を閲覧すること」が追加して規定された。ダウンロードなしのネット上の有料閲覧という児童ポルノビジネスの台頭に対応することが主目的であるが、罪刑法定主義により刑法上禁止される行為を明確に条文に規定する必要性とめまぐるしい技術変化に対応するための条文の柔軟性のバランスを取ったものである。例えば、誘導されたリンク先に存在した児童ポルノ画像を偶然に閲覧するようなことはこれに該当しないこと、また、通信の自由の侵害の問題とも関係するため、運用に留意すべきことが立法趣旨において明記されている。

【スウェーデン】 日本の漫画画像所持に関する児童ポルノ犯罪有罪判決 海外立法情報課・井樋 三枝子

 これが行き着く先ですね。

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/pdf/02460106.pdf
*2010年6月30日、ウプサラ地方裁判所は日本の漫画の画像を所持していた漫画翻訳者に対し、児童ポルノ犯罪の有罪判決を下した。被告人は控訴する方針であると報じられている。
事件の概要
被告人は日本の漫画の翻訳を職業としており、日本の漫画研究も行っている。被告人の自宅のコンピュータとその他の記録媒体の中に、合計51点の画像(注1)が保存されており、警察の捜査の結果、そのすべてが児童ポルノであるとみなされ、児童ポルノ犯罪として起訴された。被告人は犯行を否定して、捜査において没収された画像、記録媒体等の返還を要求して争った。
児童ポルノとされた画像は、漫画イラスト51点である。
・画像の入手方法は、漫画家個人のウェブサイトからのインターネット経由でのダウンロードや電子メールに添付しての受け渡し等によるものである。
・画像保存の目的は、主に研究目的であり、日本の漫画の実例を示す素材として利用することであると被告人は主張した。また、私的興味も存在することを認めた。
・被告人の画像に対する意識は、51点の個別的認識はなく、自宅にある日本の漫画数百冊と同様、日本の市場では一般的に入手可能なありふれたものと認識していた。また、児童ポルノに該当するという違法性の認識はないと主張している。
判決の内容
結論
被告人は刑法典第16章第10a条第1項に基づき、児童ポルノ犯罪につき有罪とする。日数罰金310クローナを80日分(約30万円)の刑に処せられる。また、犯罪被害者基金へ500クローナ(約6,000円)を支払い、公共弁護人への公的な支払いに充当するため5000クローナ(約60,000円)を支払うこととする。
判決理由
・問題の漫画イラストは、明らかにポルノの性質を有していると認められる。
・51点の漫画イラストは、被告人宅のコンピュータとハードディスクに保存されており、これは、法律で規定する「所持」に該当する。
・イラストの人物は思春期の成長が未完了であり、子どもとみなされる。このため、刑法典で規定する「児童ポルノ」における「子ども」に該当する。
児童ポルノ犯罪規定の立法趣旨にあるとおり、イラストも処罰対象となる。
児童ポルノ犯罪規定は、刑法典中、性犯罪に関する章ではなく公の秩序に対する犯罪の章に置かれており、実際に侵害を被った者がいなくても、処罰されうる。
児童ポルノ犯罪の立法趣旨によると、その保護法益は実際に描かれた特定の子どもと子ども一般の両方であるため、処罰にあたり、モデルの実在性、実体的な性的侵害の存在は求められない。
児童ポルノ規制の効果的実施の目的から、児童ポルノ表現の自由基本法及び出版の自由基本法において保護対象とされていない。
児童ポルノが処罰対象外となるのは、例えば、画像の他者への頒布が意図されない場合や被告人本人により描画又は創作された場合等、個別的・例外的な場合に限定されており、今後の立法で、処罰の対象がより包括的となることも予見される(注2)。
・本件では画像は被告人自身の作成でなく、入手の経緯からも画像が広く頒布され、移転していることが示されており、処罰対象から除外される条件に該当しない。
・立法趣旨より、児童ポルノの所持が正当化される場合は限定的であると解釈され、研究目的での画像所持は必ずしも正当化されない。
・被告人に画像の違法性の認識がないこと、画像が一般的に流通して、入手可能であることは、責任のための主観的事由の不存在にはあたらない。
・①画像が子どもを表現していることの認識、②ポルノ的な性質を帯びていることの認識、③所持の意図、以上3 点が存在していることから、有罪となる。
実在・非実在問題
被告人はスウェーデンテレビのニュース番組のインタビュー等で、問題のイラストには被害者となる子どもが存在せず、ただの漫画であり児童ポルノとして処罰される対象とならないことを主張した。また、所持には職業上の必要性があり、これを禁止することは、表現の自由の侵害であることを主張している。
出版関係者には被告人の立場を擁護する意見も多く、インターネットでのファイル交換の自由を求め、著作権等の知的財産権保護に否定的な政策を持つ、スウェーデン海賊党欧州議会に2 議席を有する)は、「漫画・アニメは児童ポルノではない」という主張を打ち出している。
一方、判決は、児童ポルノとして処罰対象となる画像においては実体的な被害が存在する必要がないこと等、非実在の未成年を描いていても処罰されることを、児童ポルノ関係規定の立法趣旨等から導き出しており、控訴された場合の今後の動向が注目される。

(1) 画像はすべて公訴時効及び秘密保護法第15 章第15 条に基づく秘密として非公開で提示された。
(2) 本号pp.12-13.「児童ポルノ犯罪に関する規定の改正」の内容を指す。本件の被告人の罰条であ
る刑法典第16 章は第10a 条は、この判決後、大幅に改正された。
参考文献(インターネット情報はすべて2010 年12 月14 日現在である。)
・判決原文は、Mal nr B6344-09, Dom 2010-06-30, Uppsala tingsratt。ウプサラ地方裁判所に請求し、
PDF ファイルで入手した。判決全訳は『外国の立法』247 号, 2011.3.に掲載予定。

日本でも主張してみようか。