「重心の調整機能」が、ロボットに人間らしい振る舞いをさせる

 皆さんは、同じ25kgの物体でも、セメントを一袋と、小学生の子供を一人と、どちらの方を楽に運ぶ事ができるでしょうか。当然ながら、セメント袋を選ぶ人はほとんどいないでしょう。
 以前に、その違いはどこにあるのか、人に聞いてみたことがあります。どうやら、相手が人間だと、“荷物”の方が、運ぶ人に合わせて自然に重心を調節してくれるので、同じ重量のセメント袋に比べてよっぽど楽になるのだとか。

 ロボット工学というと、「より人間に近い歩行」という分野が昔から研究され続け、成果を上げ続けていますが、この「相手に合わせた重心の調整」というのも、人型ロボットにとって今後必要になってくる「人間らしい振る舞い」の一つではないかと私は考えています。
 将来人型ロボットが家庭に入ってくる時代に、真っ先にロボットに飛びつくのは、恐らく美少女ロボットおたくの金持ち男性と、同じ金持ちでも、子供が成人した寂しさの穴埋めにと幼児型ロボットを買い求めるおじいちゃんおばあちゃん*1と、二種類の層にきっと分かれるでしょう。
 どちらの層も、ロボットを自分の家族とみなして愛を注ぐ人々です。さらに重要なこととして、どちらの層も、ロボットの頭をなでたり握手するだけにとどまらず、ロボットを抱きしめるでしょう。
 頭をなでたり握手した時に反応するロボットというものは、すでに存在します。しかし、抱きしめられた時、特に抱きかかえて持ち上げられた時に、人間らしい振る舞い―つまり相手に合わせて重心移動―をするロボットというのは、恐らく未だ存在しないのではないでしょうか。
 すると、数十キロもする鉄の塊である人型ロボットも、人間にとって持ち運びやすくなるだけにとどまらず、無機質な物体である事を忘れさせてあたかも人間らしく錯覚させ、それによってきっと愛着が湧いてくるように思えます。
 もちろん逆も真でしょう。介護ロボットが介護する人間を持ち上げるには、相手に合わせて重心移動しなくてはなりません。

 相手に合わせて重心を移動するという、人間にとってあまり意識せずに行える何気ない事であっても、ロボットにとっては一仕事です。でも、この小さなステップが、ロボットにとっては革新的で大きな一歩。これが達成できた時、ロボットは一歩人間に近づくのではないか、私はそう思います。

*1:今でさえ「プリモプエル」や「おしゃべりたっくん」というおしゃべり人形が一部の中高年層に人気なので、そういった人々であれば人型ロボットもすんなり受け入れる事でしょう。