持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

読解指導・読解学習の手順⑤

要約

谷口(1992)によれば、要約(summarizing)とは読み手の総合的な能力が要求される認知的な行為で、読みの最終段階に位置するものであるという。また高梨・卯城(2000)は大意の把握がある程度できるようになったらその感覚を確かなものにするために要約文を書く指導を行うべきであると提案している。
谷口も指摘しているように、英語の文章では書き手が述べたいことはトピックセンテンスの形で明確に示されることが多いので、各パラグラフのトピックセンテンスをつかむことで要約の骨格が形作られる。

要約の利点

谷口(1992)は読みにおける要約の利点として次の5点を挙げている。

  1. 重要な情報を探しながら読むことにより、読みが深くなる。
  2. 理解内容をよく覚えている。
  3. 文章の構成をよく理解することができる。
  4. 自分の言葉でまとめるため作文力が向上する。
  5. 理解度をチェックすることができる。

高梨・卯城は要約文を英語で作成する場合は書き手の意図を明確に伝わるようにするために表現を工夫することができるようになり、日本語で作成する場合には一文ずつ丸ごと和訳してしまう習慣から抜け出せるようになるという利点を強調している。
また要約文の作成にあたっては、トピックセンテンスのないパラグラフではトピックセンテンスを読み手が自ら作成することも必要となるから、学習者の読みは確実に深化される。

和訳と要約のどちらを先に行うべきか

伊藤(1987)は要約文の作成を目的とした受験参考書の代表格であるが、その解説は一文ごとの文法上の理解のポイントを全文に渡って示したものと、要約の仕方を解説したものの2本立てになっている。冒頭で伊藤自身が全部訳さなければ要約できないようでは困ると注意を促しているものの、独習では全訳を作成した後に要約文を作成する学習者も少なくないと思われる。
しかしこの方法では学習者が和訳によって得た日本語の文章を読んで要約文を作成することも可能であり、十分な学習効果が期待できないおそれもある。したがって要約文の作成は全文和訳を経ずに行うことが望ましいと言える。もちろん授業のなかでトピックセンテンスなど、文章の一部を日本語で解説する際に訳出する分には問題はないであろう。
より具体的には次のような手順で読解指導を展開する方法が考えられる。

  1. スキミング
  2. 要約文作成(日本文)
  3. 全文和訳

読解指導・読解学習の流れ

上記の手順は複数のパラグラフで構成される文章を読ませる・読む場合のものである。すでに述べたとおり、この前段階として文構造の習熟とパラグラフ構造の習熟を経る必要がある。これらを加えると全体の読解指導・読解学習の流れを次のように考えることができる。

  1. 文構造の把握
    1. 品詞・句構造規則・文型の理解
    2. 上記の知識を利用した文理解の実践
  2. パラグラフ構造の把握
    1. パラグラフ構造の理解
    2. 上記の知識を利用したパラグラフ理解の実践
  3. 文章の理解
    1. スキミング
    2. 日本語による要約文作成
    3. 全文和訳

これは寺島(1986:42)のいう、「読み」の4段階と関連してくる。

  • a. 文が読める
  • b. 文章が読める
  • c. 段落が読める
  • d. 全体が読める

寺島の言う「文章が読める」とは結束性が把握できることを指している。寺島は語彙的・文法的な理解においてはa→b→c→dの順に進んでいくが、内容理解を考慮すると必ずしもそうではなく、むしろ(a←b)→(b←c)→(c←d)の過程を経ると考えるべきだと主張する。
ここで日本語を利用した指導・学習モデルを提案したのには理由がある。1つは文法訳読一辺倒だった授業からの移行が比較的容易であること。また学習者の側から見ても教室の学習であれ、独習であれ、過去に文法訳読を多少なりとも経験した者にはこの方が取り組みやすいと考えたからである。*1

参考文献

*1:高校などの現場での実践踏まえてのご意見・ご質問がありましたら、お気軽にメールにてお寄せ下さい。