持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

S+V+Oという文型について

「愛用文型」

四宮(1999)は、英語では主語(Actor)+動詞(Action)+目的語(Goal)というパターンでほとんどの現象や人間の行動、状態を説明できると指摘している。また安藤(2005)ではS+V+O型を「英語の愛用文型」(favorite sentence type)と表現している。黒川(2004)でもS+V+Oこそが英語の基本であると指摘している。
このことが意味することは、英語教育・英語学習においてはおそらく次の2点に集約することができよう。

  1. S+V+Oは、英語の文型のなかで、他の文型に先立って教えるべき文型である。
  2. 中学英語の導入において、BE動詞に先立って一般動詞から導入するべきである。

1.に関しては小寺(1996)が5文型8品詞の枠組みを見直すことを含めた議論が必要と唱えていることと関連する。少なくとも、文法の明示的指導を従来の5文型8品詞で行うとしても、5文型を第1文型から順番にリスト化し提示する必要はないと言える。
2.に関しては小寺(1990)がその利点と難点について触れている。利点のひとつはここで指摘した頻度的な理由であるが、もう一つの利点として、この文型が文法的にも語彙的にも日本語との違いが明確であり、それゆえに言語的なカルチャーショックが大きく、本格的に英語を勉強し始めたという実感が起きやすいということを指摘している。ただしこの日英の違いの大きいところから導入することは学習者にとって難度が高く、英語を難しいものと思ってしまう学習者が出てくる可能性があり、これが一般動詞から導入する際の難点であると指摘している。

S+V+Oをめぐる問題点

S+V+Oという文型を日本語を介して導入する場合、「SはOをVする」という訳を同時に提示することがある(cf.山崎1971)。これは「主語」や「目的語」という概念の難しさゆえの措置であるとおもわれる。実際、寺島(1986)がこの用語の難しさを指摘している。この概念は低学力の生徒や真面目に考える生徒にとってわかりにくいと寺島は指摘する*1
しかし「目的語」という概念が難しいからと言って、「SはOをVする」という訳だけを押しつければよいということにはならない。吉川(1995)などの研究で明らかであるように、英語の目的語に対応する日本語の格標示は「ヲ格」だけではないからである。こうした事実に対し、吉川は名詞句の意味役割と格標示形式に基づいて動詞を類型化することで誤用を予測することができると述べている。

S+V+Oと意味役割

寺島(1986)は四宮(1999)の分析のような、主語(Actor)+動詞(Action)+目的語(Goal)ではこの文型を正しく捉えることができないと指摘する。これは「主語」や「目的語」という文法関係を、意味役割の観点から下位区分できるためである。しかし、意味役割の概念を学習文法に盛り込んだ場合、5文型がただ細分化され、学習すべき文法知識が水増しされるだけである。
理論言語学的に見た場合は文法関係だけの分析よりも意味役割も考慮した分析の方が言語事実を正しく捉えたことになり、文法の質が上がる。しかし応用言語学では学習内容が増加すれば、学習者にとって必ずしも文法の質が上がるとは言えない。したがって意味役割を学習文法に組み込んだ場合、文型論を従来の5文型を温存するのではなく、動詞の意味から再構成することを視野に入れて考えて行かざるを得ない。

参考文献

  • 安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社.
  • 小寺茂明(1990)『英語指導と文法研究』大修館書店.
  • 小寺茂明(1996)『英語教科書と文法教材研究』大修館書店.
  • 黒川泰男(2004)『英文法の基礎研究』三友社出版.
  • 村田勇三郎(1982)『機能英文法』大修館書店.
  • 四宮満(1999)『英語の発想と表現』丸善
  • 寺島隆吉(1986)『英語にとって学力とは何か』三友社出版.
  • 山崎貞(1971)『新自修英文典第5訂版』研究社出版
  • 吉川千鶴子(1995)『日英比較動詞の文法』くろしお出版

*1:寺島のこの指摘から分かることは、現在の学校文法の5文型の枠組みや自動詞・他動詞の区別などは進学校の「優等生」によって支えられているということである。しかし大学入試問題で文法用語そのものが出題されることは皆無であるから、この枠組みを変えて困る学習者はいないことになる。