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トラッド・ソングとはポップ・ソングの究極形である。「時代を超えて人々に歌い継がれていく」ということは、「うた」にとっての最も理想的なあり方だからだ。そして、その次元に達するには、限界までシンプルでキャッチーで普遍性のある歌詞やメロディでなければならない。そんなトラッド・ソングと自身のオリジナル曲を何の違和感もなくアルバムの中で共存させているケイト・ラスビーは、まさにスコティッシュ・フォーク界の至宝と呼ぶに相応しいシンガー・ソングライターである。
本作は彼女にとって初のセルフ・プロデュース作品。これには彼女の実生活でのパートナーであり、長年に渡って彼女のアルバムのプロデューサーを務めてきたジョン・マカスカーとの離婚が影を落としているのは間違いないだろう(ただし、彼もバック・バンドのメンバーとしてアルバムには全面的に参加)。サウンドは彼女の歌声を前面に押し出したものとなり、これまでに比べるとスロー・ナンバーがかなり多めに収録された内容となっている。
アップテンポなナンバーの不足は本人も十分に承知していたのであろう。それを補完するかのように、本編終了後にはアンコール・ナンバーとしてキンクスの「村の緑を守る会」のカヴァーを収録! ケイト・ラスビーの伸びやかな歌声が活かされたそれは、キンクスのカヴァーとしてはカースティ・マッコールの「Days」に匹敵すると言っても過言ではない見事な出来。このカヴァーの為だけにでもアルバムを買う価値があると断言する。
『Awkward Annie(不器用なアニー)』というアルバム・タイトル(とジャケット)は、前作の『The Girl Who Couldn't Fly(空を飛べなかった少女)』(大傑作!)と同じかそれ以上にロマンチックで素敵やね。それだけでアルバムの魅力が何割か増すってもんじゃないか。全12曲51分。元フェアーグラウンド・アトラクションのエディ・リーダーも参加。
Kate Rusby - Cambridge Folk Festival 07 "Bitter Boy"