サム・フリークス Vol.29で上映する『マーシャン・チャイルド』の監督であるメノ・メイエスはスピルバーグ版の方の映画『カラーパープル』の脚本家でもあるわけだが、『マーシャン・チャイルド』は彼とジョン・キューザックがタッグを組んだ2作目にあたる。彼等の初タッグ作となった『アドルフの画集』が「血」にこだわり続けたヒトラーを批判的に描いていたことを踏まえると、疑似家族を肯定的に描いた『マーシャン・チャイルド』も作風は全く違えど、本質的には通じるものがあるといえよう。
■
『ビートルズ/レット・イット・ビー』がついに配信開始! 『ザ・ビートルズ:Get Back』が世に出た今、改めて観直してみると長尺な『Get Back』の演奏シーンを中心にまとめたダイジェスト版といった趣きもある(『Get Back』は『レット・イット・ビー』と映像ができるだけ被らないように配慮していたらしいが)。つまり今回の『レット・イット・ビー』は『ザ・ビートルズ・アンソロジー』に対する『コンプリート・ビートルズ』のような立ち位置になったわけだ。どちらも定番になった方の作品の邦題に「ザ」が付いているのも面白い。今回のディズニープラスの配信では邦題が 『ビートルズ/レット・イット・ビー』から『ザ・ビートルズ: Let It Be』へと変更になっているんだが、『ザ・ビートルズ:Get Back』と揃えようとした日本側の意向でしかないことは理解しつつも、「ザ」が付いたことで本作もきちんと定着して残っていきそうな気がしてしまう。
ちなみに『コンプリート・ビートルズ』はビートルズのキャリアを2時間でコンパクトに振り返った良質なドキュメンタリーなので、自分は今でも再発を待ち望んでおります。とはいえ製作がアップル社ではなくてMGMであり、現実的に考えると再発は困難だと思われるので、『ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK』(これも「ザ」付きだ)のようなビートルズの入門編に相応しい新たなドキュメンタリーの編纂を待ちたいところ。
■
マギー・ロジャースの「Lights On」大フィーチャー映画だった『アイデア・オブ・ユー 大人の愛が叶うまで』は『ノッティングヒルの恋人』の男女逆転版というべき内容。原作ありきとはいえ、脚本には『KISSing ジェシカ』(傑作!)のジェニファー・ウェストフェルトが関わってたんすね(監督は『ビッグ・シック』のマイケル・ショウォルター)。
■
イタリア映画祭2024で上映されたパオラ・コルテッレージの初監督作『まだ明日がある』は、これまでも『これが私の人生設計』などの脚本作で女性に対する差別を取り上げ続けてきた彼女の集大成的な内容。パオラ・コルテッレージとヴァレリオ・マスタンドレアは『こどもたち』に続いて再び夫婦役。家庭内暴力の陰惨さも、彼等が演じていることとミュージカル風の描写によってだいぶ和らげられていると思う。アウトキャストの「B.O.B.」が大フィーチャーされていたりと、パオラ・コルテッレージ自身が語っている通りに「過去を舞台にした、とても現代的な映画」なのだった。ちなみに「B.O.B.」とは「Bombs Over Baghdad」の略だが、この辺も映画の内容と上手くリンクしている。
■
8月にリリース予定のチャーリー・ブリスの新作『Forever』のジャケットに既視感があると思ったら、グリフの新作EP『Ver2igo Vol. 2』だった。グリフは2022年のサマーソニック出演などを経て、この7月にようやく1stアルバム『Vertigo』がリリースされる! 彼女はシグリッドとの共演曲「Head On Fire」(サマーソニックで披露してくれた時は嬉しかった)もある人なので、まさに待望の1枚。