原 りょう『それまでの明日』(早川書房)レビュー

それまでの明日

それまでの明日



 なんだか今になってもなお、作者にはチャンドラーの亡霊がつきまとっているのだなあ、とPR文をみて切なくなった。寡作なだけに、作風のバリエーションを拡げられなかった憾みがあるのだが、でもとっくに、エピゴーネンの閾からは遠く脱してるのに。本作も、ある意味、長いお別れ、よりも韜晦と齟齬に満ちた苦い後味を残す物語で、それは幕切れの時間軸設定がいちばん象徴的だが、チャンドラーとはまた違ったメランコリックなニュアンスは、われわれだけが感受しうるバナキュラーなものなのだろう。作者には、「それからの昨日」というタイトルをかぶせたくなる続編を期待したいが。